何かを言いたそうにしていた
ドンファンの頼みはなかなか断りづらい。ボクを頼ってくれていることが分かるからだ。8日の早朝に東京駅でドンファンと待ち合わせて、新幹線に乗って新大阪へ。新大阪駅までマコやんが迎えにきて、中之島のリーガロイヤルホテルへ行く。そこの1階の喫茶店で大量のケーキを購入して、昼には自宅に到着した。ケーキはさっちゃんへのお土産だ。
2階の寝室に招かれる。そこにはイブちゃんの亡骸が置かれていた。午後に市内の有名神社の神主さんやお寺のお坊さんが来て通夜をした。
愛犬が死んだ悲しみを紛らわそうと思っているのか、ドンファンは落ち込んだ様子を見せずに、明るい調子で「6月にイブちゃんの告別パーティーを開こうと思うが、どうでしょう」と相談された。
「あのね、6月11日にこの近くで告別式をするから。盛大にしたいのでヨッシー(ドンファンはボクのことをそう呼ぶ)は東京からテレビなどのマスコミを集めて欲しいんだ。デヴィ夫人も来るから」
5月23日にも、ボクに会いたいと告げる電話が入る。すぐにはいけない、6月1日にドンファンが東京に来る予定があるのは聞いていたので、「そのときに会いましょう」と答えると、頑なに「すぐ会いたいんだ」と伝えてくる。
「田辺に来てもらえませんか?相談したいことがありますので」
「もしかして離婚ですか?する気もないクセに」
なにせ55歳も年の離れた妻だ。普段からボクは「すぐに離婚するんじゃないの?」と軽口をたたいていた。
「いや、いや……」
なんだか歯切れの悪さが気になったが、田辺に行くかどうかは一旦返事を保留した。すると24日の午後4時にも電話が来た。ドンファンから夕方に電話が来ることは非常に稀なことだ。
「どうしたんですか?こんな時間に……」
「やはり来ていただきたくてねえ。どうですか?」
後で分かるが、ドンファンはこの電話の後、直ぐに会社に「ヨッシーが来るから」と連絡をしていたという。一体かれはなにを話そうとしていたのだろうか。この電話から6時間後、ドンファンの遺体が、自宅寝室ソファーで発見された。

「体がカチンカチンで。社長、社長と抱き着いたのよ。さっちゃんが救急車を呼んで、救急車がこちらに向かっている間、心臓マッサージを救急隊員からの指示で私がやったけどダメだった」
とKさん。さっちゃんもその日の午後のことを話し出した。
「4時すぎには2階で相撲をテレビ観戦し、6時前には一階リビングで社長はビールを飲みましたが、残したんです。Kさんが作って置いてくれたうどんには手を付けませんでした。それで一人で2階に上がったんです。私は下のテレビを見ていて、Kさんが帰ってきた7時半ごろから10時ごろまでリビングにいて、それから上に行って遺体を見つけたんです」