紀州のドンファンが死の直前、親しい人に遺した「最期の電話」

急逝、一体なぜ…
吉田 隆

覚せい剤…?

午後から夕方まで、葬儀屋の係員と葬儀の相談。その後もいろいろあるだろうから、とボクは自宅に泊まることにした。

さっちゃんとKさんが19時すぎに「スーパー銭湯」に出かけ、一人で留守番をしていると20時半にインターフォンが鳴った。画面には4人の私服の男女が。

「田辺署ですけど……」

捜査関係者だ。玄関に招き入れて話をしているうちに、21時すぎにKさんとさっちゃんの2人が帰ってくる。捜査関係者はそれを見て、

「ちょっと奥さんに署に来ていただきますから」

というと、強引にさっちゃんを車に乗せて走り去っていった。Kさんは一階寝室で休み、ボクもコンビニで弁当を買って22時には酒を呑んでリビングのソファーで横になった。体を揺り動かされて目を覚ますと見知らぬ男が立っている。

「和歌山県警です。家宅捜索ですので出て行って下さい……」

 

あまりに多くのことがあり過ぎた一日。やっと寝れたのに、と思ったが対応しないわけにはいかない。頭がぼんやりとしている。

「捜索令状を見せて下さい」
「それは見せる必要はない。あんたは第三者だから。早く(家から)出て」

有無を言わせない高圧的な態度。

「ほらほら、出ろ!」

腕を掴まれ、そこに大きな痣が出るほど引っ張られたのである。外では指揮を取る警部が立っていた。

「捜索令状には何と書かれていた?」
「覚せい剤の注射器、吸引器、パケなどを捜査と書かれていました」

その後、捜索に立ち会ったさっちゃんに訊くと、そう答えた。

覚せい剤?ドンファンがやっているとは到底思えない。誰かが飲ませたのか?直ぐにそう思った。

「私も指紋、尿、注射痕などを調べられました」

「キミは覚せい剤を使ったことはないだろ」
「したことも興味もないです」

さっちゃんは不思議そうな顔をした。11時からは会社の従業員全員が田辺署に呼ばれて携帯電話を没収されて尿や注射痕を調べられる。それと同時に会社にもがさ入れが入り、その令状には「殺人容疑」の文言が。

通夜のある29日も8時から自宅にがさ入れがあり、16時まで続いた。そして葬儀が終わった31日の朝からさっちゃんとKさんは田辺署で事情聴取を受けた。

突然すぎるドンファンの死。ボクはいまだに、受け止めきれないでいる。いまはただ、冥福を祈るしかない。

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