LGBTの間でも評判「おっさんずラブ」
ネット上で話題が沸騰しているテレビ朝日のドラマ「おっさんずラブ」。私の周りのLGBTの間でも全体的に評判が良い。
ゲイの漫画家、野原くろさんは、ツイッターで、「『ね?男同士の恋愛ドラマ、おもしろいでしょ?』と、ちょっと嬉しい気持ち。…てか原作もないオリジナル脚本で、こんなおもしろいドラマ作られたら商売上がったりだよ!w」と書いている。
ゲイ寄りバイセクシュアルを自称する友人(40代 公務員)は、「同性愛をネタにした笑い狙いでもなく、変に強調することなく、かといって同性愛者にとって楽観すぎるというわけでもなく、ほどよいバランス」と評す。
またレズビアンの友人(40代 画家)は、「自分たち(セクマイの)が思ってること、気持ちをドラマの中のセリフで聞くのはエンパワメントされるなぁと思う」と語った。
しかし、一方で、「ノンケ(異性愛者)が、そんな風になびくわけない。非現実的」「性のあり方がよくわからない」というゲイの声も聞いた。
果たして、この中で表現されているセクシュアリティ(恋愛感情を含む性にかかわること)は、どう考えたらいいのだろうか。
彼は「同性愛に目覚めた」のか?
もともと「巨乳好き」を自称し、男性に惹かれることなどイメージもしていなかった「はるたん」こと春田創一(田中圭)は、上司(部長)である黒澤武蔵(吉田鋼太郎)や、本社からあたらしくやってきた後輩、牧凌太(林遣都)から恋心を抱かれアプローチを受ける。
黒澤の好意に気づくと、春田は黒澤が身体的に接近してくることにおののき、激しく動揺する。また、仮住まい状態であることを知り、自分の家でルームシェアすることになった牧の突然のキスにも、強い拒絶を示す。
しかし、次第に牧に心惹かれていく自分に気づき、付き合いを求められ、戸惑いながらも承諾する。
それでもなお、これまで同性に恋愛感情を抱いたことのない春田は、自分は相手にとって彼氏なのか、彼女なのかと疑問に思う。しかし、付き合いを続ける中で、春田は牧への思いを深めていく。
春田の牧への恋愛感情が深まっていることは、牧が別れを言い出した際に、泣きながら別れたくないことを告げるシーンで表現されている。
この春田の感情の変化をとらえて、「同性愛に目覚めた」と表現したり、あるいは「ゲイになった」と思ったりする視聴者もいるようだ。
しかし、大部分のゲイやレズビアンは、自分の同性に対する思いについては、「気づいた」と感じており、同性への思いを「目覚めた」「なった」という言葉を好ましく思わない人も少なくない。
また、これまで、指向性別*(恋愛感情や性的な欲望の対象となる性別)は変えられないということが、LGBTなどについての知識を広げる活動をしてきた人たちによって強調されてきた。私も、講演などでは、「基本的に変化しない。また意志によって変えられるようなものではない」と説明している。
実際に、過去において様々な精神医学などの分野で、同性に対する指向性別を「治療」しようという試みがおこなわれてきたが、それはできないばかりか、本人の精神を破壊することにつながってきたことから、指向性別は「治療」できない、その必要もないということが国際的な共通認識となっている。
では、この春田の同性への恋愛感情を持つに至る変化は、単なるフィクションのファンタジーなのだろうか?
実は、必ずしもそうとも言えない。私が、指向性別について語るときに、「<基本的に>変化しない」と表現しているのは、そのためだ。