「第六感」を発達させた、異形のサメ
シュモクザメを漢字で書くと「撞木鮫」、英語では「ハンマーヘッドシャーク」だ。
その名のとおり、大きなハンマー状というかT字形というか、バシッと頭を叩いたら眼が飛び出てしまったかのような、まるでアニメのキャラクターのような一風変わった形の頭をしている。
このシュモクザメ、実はサメ界一の「進化系」のサメともいわれている。彼らの頭の形についてはさまざまな説が唱えられているが、大海原を生き延びるうえで大きな意味があったという説が有力だ。

彼らの眼はT字形に張り出した頭の両端に、鼻の穴は眼のすぐ内側に存在する。つまり、左右の眼と鼻の穴が大きく離れている。そのため、ハンマー状の頭を持たないサメと比較すると、視覚も嗅覚もより広範囲の情報をとらえることができる。
さらに、T字の横棒のところには、生物電流を感知する「ロレンチーニ器官」が多く集まるため、微弱な電気を感知できる面積も、ハンマー状の頭を持たないサメと比べると大きくなる。それにより、サメ独特の能力である「第六感」の感度が、ほかのサメと比べて高いと考えられている。
サメ独特の「第六感」とは、いわば透視能力のようなもの。
超能力者がテーブルの上にあるトランプに手をかざすと、記号や数字をビシッと言い当てられるように、海底の砂地の上すれすれを泳ぐシュモクザメは、砂に身を潜めているエサ生物の微弱な電流を察知して、居場所を突き止めてしまう。
シュモクザメの口のまわりには、たくさんのエイの毒棘が刺さっていることも少なくない。砂の中に隠れている彼らを上手に捕食しているのではないだろうか。
現時点でシュモクザメの仲間は世界に9種。
種類によって、大きく左右に突き出た頭を持つものや、左右の突出具合が非常に小さいもの、頭の真ん中に切れ込みが入っているものなどがいる。
これは、彼らの生活スタイルや捕食生物の違いから進化したものなのだろう。微妙に異なる頭の形状から、彼らの生活スタイルを想像してみるのもおもしろい。
なお、ここから先は、彼らのことを、親しみをこめて「ハンマーヘッド」と呼びたい。
ハンマーヘッドとの出会い
わたしとハンマーヘッドとのはじめての出会いは2001年に遡る。当時のわたしは大学4年生。研究のため、小笠原諸島の父島で生活していた。
父島の二見港湾内で、夜釣りをしていたときのことだ。慣れない手つきで釣り針にエサをつけてみたものの、海に投げ入れる途中で釣り針からエサが落ちてしまった。
再度エサをつけようとリールを巻くと、街灯に照らされキラキラ光る釣り針を追いかけて、何かが泳いできた。釣り針のまわりをくるくる何度か回り、ぱくっと食いついた。釣り針にエサはついていない。
食いついたその魚は、びっくりするくらい引きが強い。対峙している間は汗だくになった。
かなりの大物かと思ったら、釣り上げてみると60㎝弱の小さな魚体。なんと、赤ちゃんハンマーヘッドだった。ハンマーヘッドの出生サイズは40~50㎝ほどだから、生まれたばかりだったのかもしれない。
二見港湾内では、昔は、夏になるとハンマーヘッドの赤ちゃんがよく目撃された。
小笠原諸島が世界自然遺産に登録されて湾内の船の往来が増えたせいか、ハンマーヘッドの目撃例は少なくなっているようだが、2001年当時は、サンゴを見るためビーチで素潜りを楽しむ人が、小さなハンマーヘッドと遭遇することも少なくなかった。
7月近くになると母ザメが沿岸域で出産し、子ザメたちは、外敵も少なく食べものも豊富なこの湾内で一定期間を過ごしていたようだ。
夜釣りの一件の翌々年、2003年6月には、小笠原・父島でまた忘れられないできごとがあった。