アートの世界の法律と倫理
アートの世界は独特で興味が尽きない。
アートの取り扱いに際しては、たとえ法律を守っていても問題が起きることもある。いわば法律とはまた別のルールが存在するのだ。
アートの世界では、「法律」に加えて、法律外の規範意識としての「倫理」が重要な働きをしているといってもよいかもしれない。
2018年に報道された奈良県大和郡山市に設置されていた「金魚電話ボックス」の撤去と東京大学生協が所有していた絵画作品「きずな」の廃棄という2つの事例から、アートの世界の見えざるルールについて考えてみたい。
事例1:「金魚電話ボックス」撤去
まず、金魚の名産地として知られる奈良県大和郡山市に設置されていた通称「金魚電話ボックス」と呼ばれる作品が撤去された事例から始めよう。
見てのとおり、電話ボックスを水槽として使い、そのなかで金魚が泳いでいる、という作品である。インスタ映えするということで人気の観光スポットになっていたそうだ。
この作品は、元々は京都造形芸術大学の学生グループ「金魚部」が「テレ金」という名称で2011年に制作、発表したものであったが、その後「金魚部」は解散し、電話ボックスを譲り受けた大和郡山の有志の集いである「金魚の会」が2013年のアートイベント「はならぁと」から展示し、このイベント後には大和郡山市柳町商店街のコーヒーショップ「K−COFFEE」の敷地内に設置された。なお、本件については京都造形芸術大学も経緯と見解を公表している。
金魚電話ボックスは大和郡山市の観光スポット。 pic.twitter.com/VZfJ4IrNvH
— O-O (@otukatuo) 2016年10月14日
ところが、現代美術作家の山本伸樹氏から、自身が1998年に「メッセージ」として制作、発表した作品と「金魚電話ボックス」が似ており、著作権を侵害しているとの指摘があった。
画像左:山本伸樹「メッセージ」(1998)
「メッセージ」も、電話ボックスを水槽として使い、そのなかで金魚が泳いでいるという作品である。「メッセージ」は、いわき市立美術館や全国各地で展示され、メディアにも取り上げられていた。
報道によれば、山本氏は著作権侵害だからお金を支払え、ということを言ったのではなくて、自分で費用を負担して、電話ボックスをデザインし直し、再度山本氏の作品として設置するよう提案していたとのこと。
しかし、商店街組合は、トラブルになっている状況を考慮して「金魚電話ボックス」の撤去を決定したと報道されている。
「メッセージ」は現代美術作家の山本氏が美術作品として発表しており、著作権法で保護される美術の著作物といってよいだろう。
問題はその独占の範囲をどう考えるのか。果たして「金魚電話ボックス」は、「メッセージ」の著作権の侵害になるのだろうか?