米国NCAAは日本の「体育会系」を変えることができるのか?

日米「大学スポーツ」こんなに違う
田丸 尚稔 プロフィール

私が日本地区の代表を務めるIMGアカデミーは、その名の通り私立の“学校”として、80を超える世界中の国から約1200名の中高生が集まる教育機関だ。

日本では、テニスの錦織圭選手が卒業した場所としてスポーツのみに焦点が当てられ「プロ選手の養成機関」などと言われることも多く、学校であることを伝えると驚かれることが少なくない。実際は、毎年卒業生の95%以上が米国の大学に入る進学校だったりする。

著者の所属するIMGアカデミーでスポーツをしている生徒たち(写真)著者提供

我々も大学と同様、生徒たちをStudent-Athleteと呼んでいる。トップアスリートを育成するのに十分すぎるぐらいの最新鋭のスポーツ設備に各種エキスパートを揃えているが、やはり最も大事なのは生徒として勉強をすること、そして一人の人間として成長し、社会をリードする人材になってもらうことに主眼を置いており、ほとんどの生徒が目指すのは大学進学ということになる。

そして大学でスポーツ特待生になることが、アメリカンフットボールでも野球でもバスケットボールでも、米国ではプロ選手になる最も近道なので、日本のようなスポーツか勉強かの二者択一はなく、トップアスリートになることは、つまり勉強も頑張ることであることが一般的な考え方として支持を得ているのだ。

 

日本のスポーツ教育の未来は明るい

日大アメフト部騒動によって、今一度、学生とスポーツのあり方が見直されるきっかけになったのはとても良かった。ただ、日本版NCAAがそれを救ってくれる、という短絡的な考え方で思考を止めず、NCAAの成り立ちや本来の役割、さらには大学スポーツの構造を理解した上で、日本でも参考になるものを取捨選択していくことが大事になってくる。

そして、大学スポーツが変わるには、大学だけでは不十分であることは明白であることを今一度お伝えしたい。中学、高校、引いては子供のスポーツ教育全体の意識やあるいは文化が変わらないと根本的な解決にはならない。そう考えると、とても気が遠くなるように思うかもしれないが、私は日本のスポーツ教育の未来が明るいと信じている。

たかだか2週間の滞在だったが、たくさんの人に出会った。日本の中学を卒業しIMGアカデミーに進学するバスケットボール界の次世代のエース、田中力選手。渡米後は大学進学を目指し、さらにはNBAプレイヤーを目指す彼の目は本当に輝いていた。

日本を代表するスポーツブランドの方々はプロダクトのセールスに留まらず、大学スポーツの支援を積極的に行っていた。大学スポーツに従事する人々は学生アスリートを本質的にサポートする仕組み作りに奔走していた。中学・高校の部活動で顧問に従事する先生たち。日本にいながら世界のスポーツ体験をどのように子供たちに広げていくか、熱く語り、足を動かしていた。

現在は個々の活動になっているけれど、線としてつながり、やがては大きなムーヴメントに昇華するだろう。私も米国で得た知見は惜しむことなく提供し、ハブになるよう活動していく。“体育会系”などという言葉でつまらない事件として片付けてしまうのはもったいないし、人生やあるいは社会をも変えることができるスポーツの本質的な力をそこにとどめることはできないだろう。

田丸尚稔(たまる・なおとし)IMGアカデミー日本地区代表。福島県生まれ。千葉大学文学部行動科学科で社会学を専攻。広告代理店で営業・マーケティング職を経験後、出版社にてスポーツ誌、男性ライフスタイル誌、女性ファッション誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士を取得。 2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にて日本地区代表を務める。その他、出版レーベル"SUPER BOOKS"共同代表、東京カリ〜番長アメリカ主任。http://sportseducation.jp/

【IMGアカデミー】1978年、世界初の全寮制のテニスアカデミーとしてニック・ボロテリーが設立。アスリートとして競技力だけではなく人間形成が重要であることを説き、数々のトッププレーヤーを育てる。87年にIMG傘下になり、テニスのほか野球、バスケットボール、ゴルフ、サッカー、陸上競技、アメフト、ラクロスと8競技に拡大。現在は政府の認可を受けた中高一貫の教育機関として大学進学を目指す長期留学、短期キャンプなど様々なプログラムを展開している。https://www.imgacademy.jp/

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