2018.06.27
# テニス # 学校・教育 # ライフ

日本のテニスキッズは「錦織圭」を目指さなくていい、これだけの理由

IMGアカデミー日本地区代表の提言

錦織圭「唯一の欠点」

サッカー日本代表の活躍でワールドカップはずいぶん盛り上がっているようだが、プロテニスの世界もウィンブルドン選手権を前に、さらなる注目を集めるシーズンに突入している。

我らがスーパーヒーロー・錦織圭は前哨戦となるゲリー・ウェバー・オープン2回戦で残念ながら敗退したが、2018年6月25日の時点で世界ランク20位台をキープ、怪我から復帰したばかりの年にも関わらず世界のトップで戦い続ける姿はとても頼もしい。ウィンブルドンもさることながら、8月末に始まる全米オープンテニスへと続く、自身が得意とするハードコートのシーズンに向かってさらなる期待が高まっている。

そんな中、タイトルの通り、テニスをしている未来ある子供たちに“錦織圭を目指すな“とわざわざ伝えたいのには理由がある。ある種の警笛と考えていただきたい。

錦織圭という人物はテニスの才能があるだけでなく、一人の人間としてもとても素晴らしい。卒業した後も練習拠点としてIMGアカデミーにいる彼は、キャンパスでテニスをする子供たちをいつも気にかけてくれている。

 

ある日、テニスでくやしい思いをして泣いている生徒がいた。それをたまたま遠くから見かけた彼は、後日“よかったら“とプレゼントとして渡すようにポロシャツを持ってきてくれた。シーズン真っ只中の練習中にも関わらず、よく見ていたものだと感心したし、そのさりげない優しさがどれだけ子供たちを元気づけてくれたことか。その翌日、錦織圭がいるコートの横で真剣に練習を見つめていた生徒の顔に、もう涙はなかった。

テニスのことだけではない。サッカーなど他のスポーツもうまいし(さすがに身体能力そのものが高い)、ビデオゲームをやらせたら抜群に強く、ファッションセンスは洗練されていて……長所を挙げたらキリがない。

欠点と言えば、食事の時にポロポロとこぼしがち、ということくらいだろうか。さらに言えば、私はIMGアカデミーの日本地区を統括しており、錦織圭という存在こそが成功モデルとしてIMGアカデミーの名前を日本で知らしめてくれた。

そんな立場だが、テニスキッズたちには繰り返して言いたい。君たちは錦織圭を目指さなくていい。

留学を考えている家族から相談を受ける中で「どうしたら錦織選手のようになれるか」と質問されることが少なくない。実際に彼はIMGアカデミーを卒業して大成功を収めているし、テニス以外の競技でも世界のトップ選手として活躍する卒業生もたくさんいる(NFLやMLB、NBAなど米国のプロ競技で活躍する錚々たる面子も多く、テニスであれば世界ナンバーワンになった選手が10人もいる)。

日本では“プロアスリート養成所”のような言い方で紹介されることが多く(実際には米国の大学進学を目指す全寮制の私立の中高一貫校で、プロになるのは卒業生のせいぜい1~2%程度。それでも一般的な学校と比較すればとても大きな数字だが、毎年95%以上が米国の大学に入る、いわゆる“進学校”と言う方が正しい)、IMGアカデミーに留学することに大きな期待を寄せるのも、もちろん理解している。

ジュニア向けのスポーツ施設として見ても、ここまで充実した場所は世界中を見ても類がない。テニスも含めて8競技のスポーツを展開し、敷地の広さは東京ドーム約50個分。55面のテニスコートに16面の天然芝サッカーフィールド、6面のフルサイズの野球場などを備える広大さだ。

さらにはフィジカル、メンタル、ビジョン、栄養学、ケガ予防などあらゆる角度から身体能力を上げるプログラムを行う最先端のパフォーマンスセンターがあり、長期留学生なら各自のスポーツに加えてすべてのトレーニングに参加することになる。

IMGアカデミーのトレーニングメニュー。APD(Athletic and Personal Development)プログラムにはフィジカルやメンタルなど身体能力を総合的に伸ばすものから社会的なライフスキルを磨くものまである
拡大画像表示

子供は誰でも可能性を持っているし、プロになる道を探すのも良い。IMGアカデミーはプロを目指すには十分すぎる環境で、ここ以上の場所を見つけるのは難しいかもしれない。

ただ、そのアプローチの仕方として錦織圭が辿った方法がそのまま合うかどうかは分からない。テニスのスタイルも違うし、身体の特徴もバラバラ。メンタリティや性格もそれぞれだ。

“錦織圭”という名前のインパクトが大きいので、彼が行ったメソッドを知りたい方はたくさんいるけれど、これから留学を考えている本人がどこを目指しているのか。テニスの何が好きで、どのように取り組みたいのか。生徒自身の話が本来はより大切なのだが、それを細かく把握して伝えてくれる人が実際は少なかったりする。

関連記事