子どもの貧困対策法のインパクト
もう一点、政府が主張していたのは、貧困率にのみ目を向けると児童手当など現金給付サービスだけが焦点化され、教育や保育などの現物給付の施策の充実が反映されないというものであった。
ただ、OECDによって指摘されたのは貧困率の高さだけでなく、日本の子どもや子育て家庭をめぐる予算の少なさでもあった。
欧州などと比較すると、貧困率を下げるために有効な手段である現金給付に加え、現物給付サービスもかなり少ないことが示された。
OECDの指摘を意識してのことだろうが、現物給付(公的教育支出)の少なさについては2009年の文部科学白書が特集として取り上げ、マスコミも貧困率の高さと同時にこうした点も報道し始める。子どもには優しい国と思われていた日本社会のさらなる暗部が見え始めた。
確かに、ここ数年政権与党は、こうした教育費の私費負担の高さを意識した選挙公約や政策案を練り始めている(10年前には考えられなかった点である)。
そのひとつが保育・幼児教育の無償化である。
一方で無償化ではなく、待機児童問題など保育へのアクセス面を先行するべきだという反論もある。
ただ、どちらを優先するのであれ、保育や幼児教育にかけられている資源量の少なさについての共通認識を持っておく必要はあるだろう。
先にも触れたように、これまで日本社会は子どもや家族に税金をかけることに消極的だったのである。
図1を見ても、保育や幼児教育に対する公的な社会支出は先進国の中ではまだまだ低いのである。

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確かにここ数年保育予算は増加している。保育は成長産業と言えるだろう。にもかかわらず世界的にみればまだまだ予算的には制約を受けている状況にある(逆に言えば、他の先進国は日本以上に保育の予算が増えているのである。その理由は別の機会に譲りたい)。
もちろん、2008年当時と現在の政府の動きは異なる。特に2012年末の政権奪還後、政府は大きな一歩を踏み出した。法律制定に向け動いたのである。
生活保護の基準切り下げを進めるための弥縫策(びほうさく)としての意味もあったが、あしなが育英会などの当事者団体の声にも耳を傾けざるをえなくなっていたのであろう。