新事業で再配達に革命起こす…ドンキの「恐ろしいほどの先読み力」

「宅配崩壊」時代の本質を突いている
松岡 真宏 プロフィール

「家」の機能を外部化する

「ユックス」のもう一つの面白みは、「フリースペース」の提供という仕組みにある。これは、私たちのもつ「家」に対する固定観念を大きく変える可能性を秘めている。

「ユックス」では、基本料金として月額1000円を払えば、フリースペースが使い放題となる。追加で月額200円を支払うと、Wi-Fiも使い放題だ。パンフレットによれば、一人用プライベート書斎や開放的なリビングルームもある。

「ユックス」1店舗当たりに必要な坪数は150坪だそうだ。実はこの数字は、旧大店法の規制を外れることで、1980年代~90年代前半に日本中に大量出店された150坪未満の小型店舗の広さと符合している。「ユックス」に業態転換できる既存店舗は、ごまんとあるということだ。ドン・キホーテは、このサービスにとてつもない野望を抱いているのかもしれない。

 

「フリースペース」というサービスが暗喩しているのは、「これまで『家』にしか備わっていなかった空間や機能が細分化され、外部化されてゆく」という大きな潮流である。

一昔前であれば、書斎はひとかどの社会人にとってはあこがれの存在であった。しかし、都市部への人口集中が続く現在、自宅に書斎を持つことは難しいし、限られた空間の効率的な使い方とは言えない。そんなニーズに応えるのが、「フリースペース」のサービスである。

友人同士で一緒に料理したり、恋人同士でお気に入りのDVDを鑑賞したり、遠隔地の先生と語学のレッスンをしたり。これらの行為は、従来は家で行われていた。しかし最近では、料理教室が貸しスタジオを運営したり、カラオケルームがDVD鑑賞室・レッスン室として使われたりしている。

誰もが自分の時間を効率的に使って、時間当たりの満足度を高めようとすれば、おのずと「空間の効率的な使い方」も洗練されてゆく。特定の目的にしか使えない空間は価値が上がらない。短い細切れ時間でも活用でき、色々な用途にフィットする空間こそが、これからは価値を高めてゆくことができる。

「同時性」を解消し、時間当たりの満足度を高めてくれるからである。

写真提供:ドンキホーテホールディングス

時代の本質を捉えている

都市部への人口集中は、今後も続くだろう。ビジネスの資本が情報そのものになり、その情報は都市部に集まるからだ。やがて都市部に居住する人は、家に付随していた機能を「外部化」することを求めるようになる。

結果として、古き良き「家」が持っていた様々な空間・機能は消滅してゆくだろう。書斎、庭、キッチン、ダイニング、リビング、洗濯場、ポスト…これらは、「ユックス」のような挑戦的なサービスによって外部化されていく。

そうして人々の生き方が変わり、事業家にとってはビジネスチャンスが訪れる。ドンキホーテが始めた新ビジネスは、意識的か無意識的かは分からないが、こうした時代の流れの本質を捉えているように見える。

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