たとえば、私が日本語で話をすれば、アメリカ人やイギリス人には英語として聞こえ、中国人には中国語、韓国人には韓国語、もちろん、フランス人、ドイツ人など、世界各国の人間たちに、その国の言葉として聞こえる。つまり自動的な同時翻訳が可能になったのである。
そして数年のうちに、タクシーもバスもトラックも自動運転で、運転手なしで走ることになりそうだ。もちろん医療の世界でも、AIが大きな役割を担うことになるだろう。
極端な文系人間の筆者が
こうなると、AIとかかわりを持たないと、時代から置き去りにされそうで不安になるが、AIの関係者たちに問うと、「AIとかかわりを持つには、STEM教育を受ける必要がある」と指摘した。
「STEM」とはどういうことなのか。
関係者たちによると、 「S」とはサイエンス(science=科学)のこと、 「T」とはテクノロジー(technology=技術)のこと、 「E」とはエンジニアリング(engineering=工学)のこと、 「M」とはマセマティックス(mathematics=数学)のこと、だという。
私は、大学は文学部で極端な文系人間である。「S」も「T」も「E」も「M」も、高校時代からまともに勉強していない。逆にいえば、科学と数学が苦手だったから文系を選んだのである。
そういえば、AIの説明には、必ず「機械学習」、「ニューラルネットワーク」、「ディープ・ラーニング」などという言葉が出てくるが、私にはいずれもさっぱりわからない。
それに、そもそもコンピュータというのは、恐ろしく速く計算ができる機械で、スーパーコンピュータというのは、その速度がすさまじいものだと理解しているが、それが、なぜ自動運転や自動翻訳に結びつくのか、私の理解とは、あまりにも距離がありすぎる。
私は、どうせ文系の、しかも年寄りなのだから、AIにはかかわりようがなく、どんどん世の中を便利にしてくれるAIを、その仕組みがわからなくても、利用できる場合は利用すればよい……という気持ちでいた。
ところが、井上智洋氏(駒澤大学准教授)や小林雅一氏(情報セキュリティ大学院大学客員准教授)などの著書で、英国のオックスフォード大学の研究者である、カール・フレイとマイケル・オズボーンの両博士が2013年9月に発表した「雇用の未来」という論文のことを知った。
この論文によると、米国の労働者の47%が従事する仕事が、10~20年後に、70%以上の確率で、AIによって消滅するというのである。しかもその多くが、サラリー・パーソン、つまりホワイトカラーの仕事なのだという。
さらに、マイケル・オズボーン氏らと野村総研が共同で調査をし、やはり10~20年後に、日本人の仕事の49%がAIに取って代わられる、と2015年12月に発表していることを『中央公論』の2016年4月号で知った。
こうなると、どうせ文系の年寄りにはAIのことがわからない、と悠長にかまえているわけにはいかなくなる。