この銀河までの、現在の宇宙における距離は310億光年になるから、人類の天体観測はすでに観測可能な宇宙の果てまでの66パーセントに到達していることになる。時間軸で言えば、138億年のうちの133億年、実に96パーセントまでさかのぼっている。
「宇宙の果て」を越えて
「観測可能な宇宙の果て」とはつまり、光が届く範囲ということであるから、実際に宇宙そのものがそこで終わるわけではない。
宇宙――すなわち時空とそれを満たす物質、はそこからさらに広がっているはずである。その空間的な広がりがどこまで続くのか、それこそがいわば真の「宇宙の果て」とも言えるものだろう。
これを「空間的な宇宙の果て」と呼ぶことにしよう。
多くの宇宙関係の書物では、この2つの全く異なる概念に対して同じ「宇宙の果て」という言葉を使っている。書籍のタイトルや新聞の見出しなどでも、「ここまで宇宙の果てに迫った」というようなものをしばしば見かけるが、それらはほとんど、「観測可能な宇宙の果て」という意味である。
上に述べたように、この意味の宇宙の果てであれば我々天文学者は自信を持って「ここまで宇宙の果てに迫った!」と胸を張ることができるからだ。
だがそれは、「空間的な宇宙の果て」に比べれば極々わずかな世界に過ぎない。
空間的な宇宙の果てについては、必然的に、「観測可能な宇宙の果て」に比べて自信を持って言えることは著しく限られてしまう。
しかし一方で、これも考えてみれば驚くべきことであるが、最新の精密宇宙観測に基づいて、宇宙が「観測可能な宇宙の果て」の向こうにさらにどこまで広がっているかについても、ある程度のことを科学的に言うことができるのだ。

さまざまな観測成果に基づいて、かなり自信を持って言えるのは、宇宙は「観測可能な宇宙の果て」よりもずっと大きな領域まで広がっているということである。
観測することができない宇宙について、なぜこのようなことが言えるのか? 詳しく知りたい方はぜひ、拙著の『宇宙の「果て」になにがあるのか』を読んでいただきたい。
そして、「宇宙の果て」へと迫る研究者の営みを通じて、現代科学の偉大な到達点を感じていただければ幸いである。
『宇宙の「果て」に何があるのか
最新天文学が描く、時間と空間の終わり』
戸谷 友則 著