東京五輪「ブラックボランティア」中身をみたらこんなにヒドかった

みなさん、気づいてますか…?
本間 龍 プロフィール

宿泊先、どうするの?

――素朴な疑問なのですが、本間さんはボランティアが無償であることに異議を唱えていますが、ボランティアといえばイコール「タダ」ではないのでしょうか。

「いえいえ、ボランティアに『無償』という意味はありません。ボランティアは英語で『志願兵』という意味で、自ら志願することを意味しているのです。実際、有償のボランティアもあります。よく知られたところでは、青年海外協力隊です。一般の給料と比べれば低いですが、外国での生活費は支給されますし、国内でも一定程度のお金が積み立てられます。

ちなみに1964年の東京オリンピックでは、通訳などは有償でした。普通のアルバイトに比べてもかなりの高額が支給されたようです。

日本では、公官庁が『公園整備』や『一人暮らしの人への料理提供』など、さまざまな無償ボランティアを展開してきました。そのため、知らない間に私たちの中に『ボランティア=タダ』という概念が刷り込まれてしまったのではないでしょうか。

ちなみにボランティアですから労働基準法の管轄外となります。労働基準法では一日の労働時間や休憩時間、交通費のルール、最低時給などが細かく定められていますが、ボラインティアはその枠内でないこともお伝えしておきたいですね」

 

――なるほど。法の枠外で酷暑のもと、タダで働くわけですか…。加えて、募集要項に書かれているボランティアの参加条件は厳しいですよね。

「『1日8時間程度、連続して5日以上で合計10日以上できる人、事前の研修にも参加できる人』とあり、『交通費も宿泊費も自己負担』です。発表後、さすがに反発が強かったため、交通費については一部負担を表明しましたが、上限が千円程度、と全額ではありません。地方から来る人はもちろん、関東近県でも少し遠ければ確実に持ち出しになりますね。

宿泊先も数万人分のボランティアが、彼ら自身で確保できるのでしょうか。ただでさえホテル不足が言われ、宿泊代が高騰しています。一泊1万円としてもボランティアはかなりの額を持ち出さなくてはなりません。体育館で寝泊りさせる、という話も聞きましたが、さすがにありえないでしょう。

組織委の発表したこの募集要項で私がさらに驚いたのが『東京大会を成功させたいという熱意をお持ちの方』というところです。精神的な条件まで付加するとは……どこまで厚かましいのかと思ってしまいます」

学生が「標的」

――連続して5日以上で計10日も休める社会人はかなり限られます。実際参加できるのは、学生か退職したシニアが主力になりますね。

「大手企業は『ボランティア休暇』という制度を取り入れるなどし始めていますし、それを活用する社会人もいるでしょう。ただ、彼らにとってはあくまでも有給休暇です。組織委としても、お金を払わずに働いてくれるのでラッキーというところでしょう。

本当に無償なのは学生です。そして組織委がいちばんのターゲットにしているのも、彼ら学生です。若くてそれなりに体力もありますし、時間もありますからね。各大学とは協定を結び、少しずつ募集への地ならしをし始めています。

こんなことがありました。今年6月、筑波大学と神田外国語大学が共同で『国際スポーツボランティア育成プログラム』を開催しました。2日間受講すれば『修了証』がもらえ、それがボランティア応募の際に有利に働くというふれこみなのですが、なんとこれが有償で、2日で5000円もかかるのです。無償のボランティアになるために有償の資格が必要とは、どこまで学生の善意をむしりとる気なのだ、と信じられない思いでした。

東海大学でも同様の講座が開かれましたが、こちらの講座は1日で1500円でした。この金額の差は何なのでしょうか。集めたお金はどこに行ったのでしょうか。怪しい五輪ビジネスにしか思えません。学生の皆さんは本当に気を付けてください」

建設中の国立競技場(Photo:PIXTA)

――就職活動で有利になる、と考える学生もいそうです。

「それはありえません。11万人以上ものボランティアがいるのですから、希少価値はまったくないでしょう。面接する側も『またオリンピックの話か…』とうんざりしてしまうのではないでしょうか」

――大学生より若い生徒となると、学校や部活単位で動員されそうです。先生から言われたことに基本的に逆らえませんし、暑さへの耐性も大人よりありませんから特に注意が必要ですね。

「そのとおりです。にもかかわらず、組織委は『中高生枠』というのを設けています。たとえばテニスの試合でテニス部の子どもたちがボールボーイをする、というようなものだそうです。強制はしない、といっていますが、『家族旅行だから行けない』『受験勉強に集中したいから参加したくない』、そんなことが言えるでしょうか。日本の学校は同調圧力が強いですし、まして部活動ともなれば先生の言うことが絶対であるところがほとんどでしょう」

――そうなると、頼みの綱はシニア層ですね。参加への意気込みも高そうです。

「募集要項をよく見てください。『多様な参加者の促進』という項目に『ア 障がい者 イ 児童・生徒 ウ 働く世代・子育て世代』とありますが、それ以上はありません。シニア、という文字はないのです」

――おどろきです。ボランティアの記事などに出てくるのはたいていシニアの方というイメージがありますが。

「組織委は正直、シニアの参加を望んでいないのでしょう。熱中症が怖いからです。総務省のHPなどでも見られますが、熱中症で搬送された人の約半数が65歳以上です。また熱中症で命を落としてしまった人の8割が65歳以上です。

つまり、東京の酷暑の中でシニア層を働かせる危険性を組織委は十分認識しているのです。ですがもちろん、そんなことはおくびにも出しません。言った瞬間に、ほかの年齢層は大丈夫なのか、と批判が起こりますから」

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