そうなると見過ごせないのが、宇宙から降り注ぐ「宇宙線」の引き起こす「ソフトエラー」だ。その原理と対策を第一線から解説する。
宇宙線が飛行機を墜落させる?
2008年10月、シンガポールを飛び立ち豪・パース空港へ向かっていたカンタス航空72便は突如急降下しはじめた。
近隣の空港へ緊急着陸し数十人の負傷者を出した飛行機事故。報告書によると、速度や機体の角度、方角から機体の位置を割り出すシステムにエラーが生じたことが主な原因に挙げられている。
ではなぜエラーが起こったのか? 報告書では宇宙線の影響である可能性が高いと指摘されている。

2000年前後に今は無きサン・マイクロシステムのサーバールームで頻発したエラーもまた、宇宙線によるものだとされている。
宇宙線によるエラーに弱い半導体メモリを使用していた結果、eBayなどの顧客へ損害を与えたことが報じられた。

この2件で共通している「宇宙線によるエラー」とはどのような現象だろうか? 半導体の中では何が起きているのだろうか?
「より低電圧」なスマート化がリスクを増やす
宇宙線が大気中へ飛び込むと様々な原子核と衝突し、中性子やミューオンといった粒子を作り出す。これらの粒子が大量に地上へ降り注いでいることは、例えば科学館によく置いてある霧箱の実験でも見て取れるだろう。
粒子の多くは人体をはじめとするあらゆる物体を通り抜けていくが、中にはぶつかってしまう場合もある。中性子やミューオンが偶然半導体にぶつかり、1と0で保存されているデータを反転させてしまう現象。これが「ソフトエラー」である。

ソフトエラーが厄介なのは、誤動作が一時的なもので、再起動やデータの書き直しによって正常な状態へ戻る点だろう。
半導体自体が壊れてしまう「ハードエラー」とは異なり、誤動作を起こしたデバイスをどれだけ検証しても誤動作を再現できないため、対応が後手に回る場合が出てくる。
対策をとれないまま流通する機器が増えてしまうと、いざソフトエラー対策に取り組もうとしても莫大なコストがかかり難しいのが実際だろう。