「はあちゅうサロン」が掲げる目標は、参加者が“自分の強みを見つけ”て、それぞれが“スターになる”ことだ(水野仁輔も、「ほぼ日」の中で“カレースター”と名付けられていたが、同じコンセプトと言っていいだろう)。
たとえばオーナーのはあちゅう氏を成功者のロールモデルとして設定するならわかりやすいが、参加者は必ずしも彼女のようになることを目指すわけではない。あくまで参加者自身の立ち位置や強みを発見すること。セミナーのように短期的に何かを学んだ気になるだけで終わるのではなく、中長期的にみて、最終的に自立できることを目指す。
つまり、「はあちゅうサロン」のメンバー募集の文言として示している通り、実際に“世の中を(小さくても良い方向に)動かす人”になることがゴールとなるわけだ。
これは水野が「カレーの学校」で提唱している“プレーヤーになる”ことと一緒で、先に述べたように、一方的にレシピを学ぶ料理教室とは一線を画していることを考えると理解しやすいだろうか。
具体的な活動や、雰囲気を理解してもらうために、少しだけ内容を紹介する(実際には頭で理解するよりも入会してしまった方が“感じ”をつかめるので、ひと月でも体験してみるといいと思う)。
「スター」は惑星でも衛星でもいい
「はあちゅうサロン」は会員になると、いくつかに分かれた局(人事局とか経営企画局とか、会社組織に類似している)に所属するのを基本としているが、その他、部活動と言われる趣味性のある種々雑多なテーマをもとにつながることができる。定例会やインフルエンサーをゲストに迎えたリアルな場でのイベントも開催しているが、主軸はあくまでオンライン上だ。
そして、関わり方は様々だ。プロジェクトをベースに活動していくのだが、「長」の付く立場に立候補してリーダーの役割を担うのもよし、組織を回すオペレーションに徹するもよし、あるいは会員限定のFacebookページ上で「いいね!」と反応するだけでもいい。
もっと言えば、何も発さず、やりとりを眺めているだけでもいい(と私は思うが、“行動せよ!”という雰囲気は強いように感じる)。
オーナーがはあちゅう氏であれば、(彼女が持つ本質的なコンテンツという意味ではないが)たとえば「SNSのフォロワー数を増やす」とか、「“自分”を仕事にして、それを書籍化する」とか、参加者のわかりやすい“目指すところ”があってもいいのだが、それはあくまで目標設定の一つでしかない。それがよく理解できたのは、4月末に行われた月間MVPの選定だった。
サロンがスタートした4月中に、もっとも活躍したメンバーの一人として選ばれたのは「人事局」に所属する局長だった。彼女はその時点でSNSのフォロワー数が多いわけでも、書籍を出版したわけでもない。評価された活動は、言うなれば“地味”な範疇になるだろう。
立ち上がったばかりの組織ということもあって、人的リソースの交通整理や、メンバーの活動をスムースにするように細かく丁寧に働きかけた。オーナーだけでなく、メンバーが推薦し積極的に評価した結果、彼女がMVPを獲得したことは、とても幸せな雰囲気に包まれていたと思う。
「スター」と言うと、太陽のように自ら光を発する恒星を思い浮かべてしまうかもしれない。しかし、その周りを回る地球のような惑星でもいいし、さらには月のような衛星でも、「星」の文字が付く通り「スター」である。
旧来型のサロンであれば、この評価のされ方はなかっただろう。「教える/学ぶ」という一方通行の教室型であれば、何かを学んだ証として成果を出すことが評価になる。
しかし、彼女は人との関係性の中で生まれた活動で輝き、そして評価された。これは、まさにオンラインサロンがコミュニティとしての「場」を提供しているからに他ならない。
そして、サロンに所属する価値を感じられる(もっと言えば、お金を払う妥当性を感じる)のは、知識やノウハウを得たり成果を出すことではなく、「場」に属すること自体にあることを示している。
次回は、オンラインサロンが今後のコミュニティ運営に関して、これまでとは違う次元で重要な鍵を握っているそのポテンシャルについて、海外留学の現場との比較や、カレーというコンテンツの特異性などと比較しながら紐解いていく。
〈後編に続く〉