2018.07.27

片頭痛に悩まされる市川紗椰が腑に落ちた「脳のメカニズム」

市川紗椰が現代新書を読んでみる③

というのも、本書は人体の不思議を解明するサイエンスとしても楽しめますし、片頭痛の原因を究明するためのドキュメントとしても読める。

特に、歴史上の人物を診断して「この人は片頭痛だったのでは?」と仮説を立てる部分が大変面白いんです。

芥川龍之介「歯車」に苦しめられた

パウロの「神のお告げ」が片頭痛の前兆だった、という仮説が紹介されていましたね。パウロは旅の途中で「すさまじい閃光」を経験して、それを「神のお告げ」だと解釈したのですが、医学的に見るとこれは「閃輝暗点(せんきあんてん)」という、片頭痛持ちの3割くらいの方が経験する現象だそうです。

このように、歴史や伝説上の出来事を診断して病名を明らかにするというのは、意外性があって興味深いです。

他にも、芥川龍之介の「歯車」の例が挙げられていますね。芥川は小説の中で、片頭痛の前兆を「歯車の回転」の描写で見事に表現したのですが、偶然なのか、私も以前「歯車」を読んで頭が痛くなったんですよ。この小説が片頭痛のトリガーだったのでは? と思うくらい(笑)。

今までは小説の内容が理解できなくて頭が痛くなったのかと思っていましたが、もしかしたら芥川の苦しみに共鳴してしまったのかもしれない。

「不思議のアリス症候群」(ものが歪んでみえる症状)についても、ルイス・キャロルが片頭痛だったとは書かれていませんでしたが、その可能性もある。作家たちの苦悩を医学的に診断することの面白さをすごく感じました。

「片頭痛」という日本語でいいの?

ただ、単に読み物として面白いからという以上に、片頭痛持ち「じゃない」方々にも読んでほしい理由があります。

片頭痛持ちの方もそうでない方も、片頭痛を「病気」だと思っている人が少ないですね。「病気という認識を持ちましょう」と著者の坂井さんは言っているわけですけど、単に頭痛の一種だと思っている人が多い。

アメリカでは頭痛と片頭痛は完全に別物で、頭痛はheadache、片頭痛はmigraineと言葉も区別されています。「片頭痛」という言葉に軽い印象があって、あまりよくない気がしますね。横文字でマイグレインと言うのが良いのかもしれません。