バカ売れ「AI投信」に退職金2000万円をぶち込んだ男性の末路

AI市場と株価をめぐる、決定的勘違い
福田 猛 プロフィール

半値以下に暴落した「投信ブーム」の教訓

いま投資がうまくっているのになにを言っているんだと不思議に思われる方も多いでしょうから、以下、順を追って説明しましょう。

まず投資をするうえで絶対におさえておかなければいけないのは、「(AIの)市場が拡大することと、株価が上がることは無関係」ということです。Aさんは、「AI市場が拡大する」→「だからAI関連の企業の株価を集めて運用している投資信託は値上がりが期待できる」と考えていますが、じつはこの考え方が非常に危険なのです。

 

具体例で確認してみましょう。

2000年代経済界のトレンドの1つとして、クリーンエネルギーの将来性に注目が集まったことがありました。そして世界中でクリーンエネルギーの関連企業が注目され、それらの企業の株価は一気に上昇していきました。太陽光発電の将来性を見据えて、太陽光パネルを製造している企業の株を買った投資家も大勢出てきました。

そんな投資家の予想通り、太陽光発電の市場はその後急速に拡大していきました。日本でも都市部から地方まで広く普及し、住宅の屋根・工場の屋上・商業施設の屋上など様々な場所で太陽光パネルをみるようになりました。しかし、そうして太陽光発電が市場拡大していった裏で、株式市場ではまったく別の動きが起きていたことをご存じでしょうか。2012年4月、太陽電池の開発・製造などの大手企業であるドイツのQセルズという会社が経営破綻したのです。

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Qセルズは高効率ソーラーパネルのセルの生産量で07年、08年は世界1位の大手企業でした。しかし、魅力的に見える市場には次々と新規参入の企業が現れます。Qセルズは低価格の中国メーカーとの価格競争の激化、ドイツ政府の太陽光発電電力の買取価格の見直しの影響を受けて、市場は拡大しているにもかかわらず利益を上げられない状態に陥ってしまったのです。

魅力的に見える市場には多くの新規参入企業があり、価格競争が起こります。すると企業は期待されたほどの利益が出せずに、その後、株価は暴落していきます。つまり「市場規模の拡大=関連企業の株価上昇」というわけではないのです。

次のグラフは世界の太陽光発電設備への投資額と、ソーラーパネル製造・販売の世界的大手企業であるファーストソーラーの株価の推移を示したものです(Qセルズは2012年経営破綻したため、同業大手他社であるファーストソーラーの株価を掲載しています)。太陽光発電への投資額(市場)は急拡大しているのがわかります。しかし実際に市場が大きくなるころ、ファーストソーラーの株価はすでに高値の時の半値以下になっているのです。

(出所)ブルームバーグデータより、ファイナンシャルスタンダード作成
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