2018.08.16
# 週刊現代

「病気ではない」という診断にガッカリする、自称・発達障害者の心理

過剰な自己責任論の末に…
佐藤 優 プロフィール

「疾患掘り起こし」キャンペーン

精神科医から、「病気ではない」と言われれば、安堵するのが標準的反応と思われるが、発達障害を訴える人はそうでないようだ。

〈「私は発達障害についての専門的知識は乏しいので、絶対に正しい診断とは言えませんが」と断ったうえで、「あなたには何らかの発達上の問題があるとは思えません」と告げると、これまで経験した限りではすべての女性は失望の表情を見せたのだ。

「えっ、そうなんですか。私、ADDじゃないんですか。アスペルガーでもない? そうか……」

最初はその失望の意味がよくわからなかった。「障害の可能性は低い」と言われて、なぜがっかりするのだろうと不思議に思っていた。

しかし、何人かに話を聴くうちに、「なるほど」とそのわけがわかった。やや厳しい言い方をすれば、彼女たちは自分が思うどおりに整理整頓や書類の提出ができないのは、「自分のやる気や性格のせいではなくて、障害のせい」と思いたがっているようなのだ〉

 

新自由主義的な競争原理が、職場、学校など、社会のあらゆる分野に浸透している。その結果、生きることに費やすストレスが飛躍的に増大している。学生もビジネスパーソンも主婦も、自己責任論の圧力に常にさらされている。

そのような状況で、発達障害という脳の機能に起因する自己の責に帰さない原因があるならば、自己責任論の重圧から逃れられるという(おそらく無意識のうちの)認識が、発達障害ブームを作り出しているのであろう。

病気ならば許容できるが、自分の性格に起因する問題ならば、それを矯正する必要が出てくる。そのようなことに取り組むエネルギーがもはやないということなのだろう。

ところで、資本主義社会は、すべての事象を商品化し、金儲けの対象にする傾向がある。とくにうつ病に関しては、過剰診断が行われる傾向があるが、その背景には、製薬会社とマスメディアが一体化した「患者掘り起こし」がある。

医師としては、できる限り、うつの症状を訴える人に寄り添って、治療しようと考えるので、結果として病名を与え、薬を投与することになる。医師には主観的には製薬会社と結託しているという意識がない故に、問題解決が一層困難になる。うつ病に続いて発達障害も有力なマーケットになりつつある。

〈発達障害に関しては、先ほど述べたようにまだその原因が特定されていない。しかし、薬物療法は少しずつ確立しつつある。

自閉症スペクトラムに効果的な薬物はまだ開発されていないが、ADHDに関してはドーパミン、ノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質の不足が関係していることがわかってきており、それらが脳内でうまく循環できるような薬が治療薬として認可を受けている。

この薬は現在、「おとなのADHD」に対しての有効性も認められており、いま多くのおとなが「私が仕事を仕上げられないのはADHDだからではないでしょうか? よいクスリがあると聞きました」と診察室を訪れるようになった。

また、テレビなどのメディアも最近、こぞって「発達障害を理解しよう」といった趣旨の番組を放映したり専用サイトを作ったりしている。

これらはもちろん、薬の売り上げのためではなく啓発の目的のキャンペーンであるが、実際には「私もそうかも」と見る人の「疾患掘り起こし」につながり、結果的にはその人たちが受診し、医師が診断し、さらには薬の処方を、となるケースも少なくないはずだ〉

過剰診療から身を守るために本書はとても有益だ。

『週刊現代』2018年8月11日号より

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