パリでは水道料金が174%増加した
グローバルオペレーターは、もともとフランス生まれである。シラク元大統領がパリ市長時代の1985年、水道事業の運営をヴェオリア社、スエズ社に任せたことに端を発する。そこから両社は水道事業運営のノウハウを蓄積し、国内市場が飽和すると、トップ外交によって海外進出を図り、グローバルオペレーターとしての地位を確立した。
しかし、お膝元で異変が起きた。パリ市水道が2010年に再公営化されたのである。元パリ市副市長のアン・ル・ストラ氏によると「経営が不透明で、正確な情報が行政や市民に開示されなかった」という事情があった。
実際、民営化が始まってから水道料金は1985年から08年までに174%増。再公営化後の調査でによって、利益が過少報告されていた(年次報告では7%とされていたが実際は15~20%)こともわかっている。
日本の識者の中には、パリ市の再公営化は「数多くのコンセッション事例におけるヘンテコなケース」と解釈する人が多い。内閣府の調査「フランス・英国の水道分野における官民連携制度と事例の最新動向について」(2016年8月)でも、パリ市の再公営化について以下のように述べられている。
「ヒアリングを対象とした関係者の多くは、政治的な動向に受けた事案と評価」
「否定的な意見も多い」
しかし、肝心のヒアリング先はヴェオリア社と契約を結ぶリヨン市、リール市などで、パリ市については「日程の調整がつかなかったため」「ヒアリングは実施していない」と明記しているのだ。

ニースでも、アトランタでも再公営化
実際にはパリ市のように一度水道運営を民間に任せながら、再公営化した事業体は2000年から2017年の間に、267事例ある。
フランス国内では、2013年にニースが再公営化している。ニース市は保守政党が支配的な所であり、革新勢力だけが再公営化を望んでいるわけではないとわかる。そのほかアメリカのアトランタ市、インディアナポリス市などの事例がある。
ただし、再公営化は簡単ではない。譲渡契約途中で行えば違約金が発生するし、投資家の保護条項に抵触する可能性も高い。
ドイツのベルリン市では受託企業の利益が30年間に渡って確保される契約が結ばれていた。2014年に再公営化を果たすが、企業から運営権を買い戻すために13億ユーロ(約1690億円)という膨大なコストがかかった。
ブルガリアのソフィア市では再公営化の動きがあったものの、多額の違約金の支払いがネックとなってコンセッションという鎖に縛り付けられたままだ。
日本の首長の中には「一度民間に任せてダメなら戻せばいい」と言う人がいるが、それほど簡単な話ではない。