「まさか、騙された?」
離婚後の元夫の言動に不信を覚え、不動産の登記簿謄本を確認するため出向いた法務局で、思わず目を疑った。わたしが10分の4を所有しているはずの自宅の名義が、知らないうちに子どもたちに贈与されている。名義移転の日付は半年ほど前。離婚する、しないで、大もめにもめていた時期だ。
慌てて、海辺に所有していた別荘の登記簿謄本も見てみた。10年ほど前に元夫婦で購入したものだが、わたしの貯金から数百万円を出資したから、5分の1ほどはわたしの名義になっているはず。
夫婦共有の財産との認識だったから名義はどちらでもよかったのだが、原稿用紙をコツコツと埋めて稼いだお金を何かの形に残したかった。だから、「わたしの名義も入れておいてね」と頼んだ。元夫も了承していた。しかし、わたしの名前はハナから謄本のどこにもなかった。
そういえば、わたし名義の積立の共済金はどうしただろう? 問い合わせてみると、とうに解約されており、数百万円の解約金はわたし名義の口座に払い込み済みだという。銀行に確認したところ、そのお金はすべて引き出された後だった。
元夫の策略にようやく気づいた。わたしは無一文で放り出されたのだ。すでに離婚から2か月以上が経っていた。
離婚しても財産はそのままにしよう
当初、「好きな人ができたから離婚してほしい」とのわたしの申し出に、元夫は「愛している」「その男のことは忘れてくれ」「別れたくない」と繰り返した。妻の不貞など許すはずもないと思っていたから、その反応は意外だった。たとえどんな理由があったとしても、結婚していながらほかの人を好きになるのは悪いことだ。わたしは罪悪感に苦しんだ。「子どものためにも思いとどまってくれ」という言葉に、思わずほだされそうにもなった。
しかし、わたしは再度夫を好きになることはできなかったし、その人を忘れることはできなかった。わたしの気持ちが戻らないと知ると、元夫はようやく別れを納得したが、離婚に際して出してきた条件は実に奇妙なものだった。