経営陣の断固たる意志が必要
ところがそんなタイミングで起きた大災害が、その認識を変えたのです。東日本大震災です。
震災直後、交通インフラは大混乱しました。出社ができない社員も多かったので、当時社長だった樋口さんがこう宣言しました。
「一週間は原則出社しないでいい。お客様対応と震災復興を最優先で行いなさい。」
日本マイクロソフトの社員はこの言葉に奮起しました。
車が走れる道路をトヨタ自動車と共同で調べてネットで配信した社員もいましたし、各地でモニタリングしている放射線量をデータ化して、ウェブサイトで誰もが見られるようにした社員もいました。こういった取り組みは社会的にも評価され皆で充実感と達成感を得ました。
この時、社員の一人一人が「働き方」について意識したのです。会社に行くことができなくても、それぞれの社員が全力で働ける環境が、もう整っているんだ、と。
たとえば、役員会議も震災の影響で全員は集まれないから、と完全にオンライン会議に移行しました。オンライン会議では紙の資料は配れないから、全部デジタルに変えるしかない。でも、それでも仕事に支障はなかったし、なにより、新しい働き方を実践する必要性について経営陣と社員が「腹落ち」したのは大きかったです。
それ以降、樋口さんは「日本マイクロソフトが率先して働き方改革をやろう。その知見を共有してお客様の働き方改革を支援して社会に貢献しよう」と、「WHY」を伝え続けました。結果、社員の行動と意識が変化していったのです。
会社には、上からしか変えられないこともあれば、下から変わっていくものもある。それは確かです。ただ、「改革」といわれるような大きな変化を実行するには、「下からのニーズを取り入れながらやり方(HOW)を設計し、トップが断固たる意志をもってこれを実践する」しか、成功はあり得ません。
実際、「働き方改革に失敗した企業の三分の一は、経営者が途中で改革を阻止した」という調査結果もあるのです。経営陣が本気になって働き方改革に対して取り組む覚悟があるか。そこが必要条件と言ってもいいでしょう。
さて、「働き方改革論」もいよいよ大詰めです。残るは、「労働時間を減らしたり、働き場所を変えても、会社の成長と社員の幸せは維持できるのか」という問題です。
これには、明確に「イエス」といえます。次回は、どうすれば働き方改革を通じて会社と社員が成長し続けられるのか、について、各クライアントの評価トップ5%の社員の働き方を参照しながら、述べたいと思います。