医療保険を利用すると「控除が受けられない」現実
「やっぱり安心のためですから。車や家は保険に入るのに、自分の身体は保険に入らないのは変ですよね」
保険営業のそんな言葉を聞いたのは、25年以上も前のこと。今年64歳になる佐藤篤史さん(仮名)は、子どもも独立し妻と二人暮らし。年金をもらいつつもまだまだ現役とパートでの仕事を続け、収入を得ている。
佐藤さんは39歳の時、「安心のために」と医療保険に加入し、これまでに計106万円もの保険料を払ってきた。
保険の内容は、入院給付金が日額1万円。そのほか、ケガでの入院時におカネが出る特約や、先進医療特約をつけて、いざという時に万全の備えを取ってきた。
そのかいあってか、今年の春に胃がんが見つかった際も30万円かかった医療費はすべて、医療保険で補うことができた。
「医療保険に入っていてやっぱり正解だった。『医療保険は結局損だからいらない』という意見もたまに目にする。たしかに払った金額は冷静に考えれば、もらった金額より多い。それでもおカネを払ってきたことで安心を得られたのは大きい」
佐藤さんは自分にそう言い聞かせた。しかし、彼は、医療保険に入っていたことで、思わぬ損をしていることに気づいていなかった。本来、受けられるはずだった医療費控除について知識が不足していたのだ。
保険コンサルタントの納寛文氏が「医療費控除制度」について解説する。
「医療費控除は、医療費がたくさんかかった年の所得税が控除され、翌年の住民税が軽減される制度です。世帯ごとに合わせて計算し、年10万円を超える医療費負担については課税対象額から控除されます。
意外に知られてはいませんが、入院、通院のための交通費や自己都合は除いた差額ベッド料、自由診療費、さらには薬局で買った薬代も控除できるので、非常にお得な制度です。活用できていない人が多いのではないでしょうか」
だが、佐藤さんのように医療保険を利用してしまうと控除が受けられないという事態が生じる。
「医療費控除は実費負担した時に受けられるものです。かかった医療費がそのまま対象になるわけではなく、医療保険やがん保険でもらった給付金は引かれてしまいます。
たくさん保険料を払って手厚い保障を得たと喜んでいても、控除を受けられるチャンスを逃しているケースが多いのです」(納氏)