2018.09.16
# 週刊現代 # 本

嗚呼、恐ろしや…山口真由がド肝を抜いた、人間の生々しい表と裏

わが人生最高の10冊
山口 真由 プロフィール

竹下登の恐ろしさを知る

大学卒業後、財務省に2年間勤務して興味を持ったのは、政治家の人間性です。圧倒的なオーラのある人、子供のように無邪気な人、笑っちゃうくらいプライドが高い人……。皆、それぞれに、強烈に人間くさいです。

また、政治家には官僚派と党人派がいて、合理的な官僚派は理解しやすい。代表が宮澤喜一さんですね。一方、党人派には田中角栄さんや竹下登さんがいます。田中角栄さんには行動に明確な核があってわかりやすいのですが、竹下さんは謎でした。

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竹下さんの残した言葉を読んでも、日本語としては理解できたところで、真意のようなものが全く伝わってこない。ですが、『われ万死に値す』を読んで、常人に理解しがたい長期スパンで物事を捉えていた人だと知りました。

一見、損得を度外視したかのような不可解な行動原理も、ものすごく長期で見ると、貸しを全て回収している。貸し借りのタイムスパンが人より断然長い。その半端ではない粘り強さに、彼の底知れぬ恐ろしさを感じます。そうした人間性の源を、仄暗くほのめかすこの本は、印象に残っています。

 

現在、様々な仕事をしながら、大学院の博士課程で研究を続けています。テーマは家族法です。その家族に関心を持つきっかけは『家族八景』でした。

中学生の時に読んだ衝撃は強烈。とにかく忘れたくて、庭に出て縄跳びをし続けたくらい(笑)。人の醜さと死がリアルに描かれていて、トラウマになりそうだったから。

とくに「亡母渇仰」は、神はこんなことを許すはずがない! と。次第に冷静になって思ったのは、絵に描いたような美しい家族なんてどこにも存在しないということ。同時に、〈家族はこうあるべき〉という規範を疑うようになりました。

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その疑いは、大学時代に『青い眼がほしい』を読んで、確信に変わりました。この本には、愛されるために、白人のような青い眼が欲しいと願う黒人の少女が出てきます。

その歪んだ願いは、ありのままで美しいと自分のすべてを肯定してくれる人を持たなかったゆえ。血のつながりよりも何よりも、そういう存在こそが家族であるはずなのに、という思いが現在の研究の根底にあります。

ただ研究は行き詰まることが多いし、メディアに出ることにもストレスがあります。そんな私にとって唯一の娯楽が、昔も今も変わらず本。想像を羽ばたかせ、他人の人生を生きる遊び場があるから、現実をまた頑張ろうと思えるのです。(取材・文/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

「女子学生と大学助教授夫妻の倒錯した不貞関係が描かれていて、善悪の基準がどんどん曖昧になっていく。私の研究している法律は、社会の枠組みとして必要だけれど、法律では捉えきれない人間の複雑さを教えられる本」

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