ベストセラーを書いた二人が、「特攻」を生み出した昭和という時代と、これからの歴史認識について語り合います。
新しい世代がマーケットを作っている
鴻上:昭和史に興味を持っている人間にとって、保阪さんと半藤一利さんは憧れの人。そのお二人が、僕が書いた『不死身の特攻兵』を読まれての感想が、「佐々木友次さんのことを知らなかったの?」だったと耳にしました。それで「ああ、やっぱり昭和史の二大巨頭はご存じだったんだな」と。
陸軍の特攻隊・万朶隊の隊員で、九回も特攻に出させられ、九回とも帰還した佐々木さんのことを僕は全然知らなくて、初めて知った時には脳天をカチ割られたような衝撃を受けたんです。
保阪:半藤さんが電話してきて、「佐々木友次さんのことを書いた本が売れているんだね」と言うんですよ。もちろん私たちは佐々木さんの名をよく知っているし、亡くなられた戦記作家の高木俊朗さんも書いていましたし。
不思議だったのは、佐々木さんのことを書いた本がなぜ今売れているのか、ということ。もちろん視点とか筆遣いが時代にマッチしたこともあるけど、同時に「マーケットが変わってきているんじゃないか」と思い至ったんです。
実際、私が同じ現代新書から出した『昭和の怪物 七つの謎』も、そんなに目新しいことを書いているわけじゃないんですが、よく売れているんですね。
鴻上:いまご自分で言いましたね? そんなに目新しいことを書いていないって(笑)。
保阪:ふふふ。昭和史についてはずいぶん書いてきたので、今回はちょっと視点をズラして書いたりという工夫はしています。それも多く読まれている理由の一つだと思いますが、やはり新しいマーケットができていると感じるんですね。
つまり、われわれにとっては「当たり前」の史実を知らない世代が、新しいマーケットを構成しはじめている。
振り返ってみれば、私が昭和史や軍のことを書きはじめた昭和五十年代にも、上の世代から「こんなこと今さら書いて。みんな知っていることじゃないか」と言われました。でももっと下の世代がマーケットを作っていたんですよね。