海上自衛隊が南シナ海で異例の「対潜水艦戦訓練」を決行した事情

実は初めての「単独訓練」だった
半田 滋 プロフィール

これまでの訓練とはまったく違う

そこで新たな対中戦略として浮上したのが、護衛艦をインド洋や南シナ海に派遣して各国と共同訓練を実施する案だ。

海上自衛隊は「平成30年度インド太平洋方面派遣訓練部隊」を編制。「いずも」と同様、最大の空母型護衛艦「かが」、汎用護衛艦「いなづま」「すずつき」の3隻と隊員約800人が8月26日から10月30日まで2カ月以上にわたり、インド、インドネシア、シンガポール、スリランカ、フィリピンの5カ国を訪問する。

海上自衛隊のホームページには「『自由で開かれたインド太平洋』の前提は、地域の平和と安定であり、海上自衛隊はこの実現に向け、各国との協力を推進していきます」と派遣の目的が記されている。

だが、行動内容に関しては「インド太平洋地域の各国海軍等との共同訓練を実施」とあるだけで、自衛隊単独の訓練には触れていない。

 

本来、海上自衛隊による単独訓練は四国沖など日本周辺海域で行われ、在日米軍との共同訓練の場合でも、沖縄本島近くの米軍への提供水域で実施している。また自衛隊による警戒・監視活動の南限は、尖閣諸島を含む東シナ海までとなっている。「専守防衛」を踏み越え、他国に脅威を与えることがないよう抑制的に振る舞ってきた過去がある。

そうした経緯からすれば、場所を南シナ海に移して行われた海上自衛隊の単独訓練は、極めて異例というほかない。日本周辺海域とは水深、潮流、海水の濃度など条件の異なる南シナ海で行う訓練が「日本防衛」に直接、役立つのだろうか。

海上自衛隊公式サイトより

今回の訓練に参加したのは「平成30年度インド太平洋方面派遣訓練部隊」の護衛艦3隻と、ベトナム海軍への親善訪問のため、広島県の呉基地を8月27日に出港した潜水艦「くろしお」の合計4隻だ。

先行する護衛艦3隻に追いついた「くろしお」が「他国(おそらくは中国)」の潜水艦を模擬した「敵」となり、護衛艦3隻が搭載ヘリコプターを動員して探知し、攻撃する対潜水艦戦訓練を実施した。

南シナ海は中国が領有権を主張して引いている「九段線」の内側にあり、中国大陸近くには、中国海軍の原子力潜水艦を含む潜水艦の基地が置かれた海南島もある。中国側を刺激する訓練となったのは間違いない。

小野寺五典防衛相は記者会見で「訓練の海域に南シナ海を選んだ意図」を問われ、「南シナ海において潜水艦が参加する訓練は15年以上前から幾度となく行っているものであり、昨年度、一昨年度にも実施しております」と答えた。

「15年以上前」の訓練とは、海上自衛隊のパイロットを養成する教育航空隊を卒業した飛行幹部候補生を潜水艦に乗せ、フィリピンを訪問したことであり、「昨年度、一昨年度」の訓練とは、やはり飛行幹部候補生を潜水艦に乗せてマレーシアを訪問したことを指すとみられる。今回のような本格的な対潜水艦戦を想定した訓練ではない。

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