その罪滅ぼしの気持ちなのだろう。呉屋は今回の選挙に並々ならぬ気概で臨んでいた。
今年9月に入り金秀グループ主催のゴルフコンペがあった。参加者は沖縄の名門ホテル・沖縄ハーバービューで開かれた懇親会で驚くことになる。乾杯の音頭をとったグループの幹部が「まず翁長知事に黙祷を捧げましょう」と促したからだ。参加者には経済界の関係者もいる。当然ながら少なくない数は、佐喜真氏支持に回るだろう。
参加者の証言――。
《あぁ、これは呉屋会長の指示だなと直感しました。今回の選挙に賭ける本気度を示している。いくら政治的な心情が違っていても『殉職』とも言える形で亡くなった翁長さんへの黙祷を拒否する人はいません。
正面からの批判もできない。二人三脚で戦ってきた翁長さんの遺志を継いでいくというメッセージですよね。》
「イデオロギーの前に、尊厳が傷つけられている」
呉屋が考える翁長の遺志とは何か。呉屋の話はオール沖縄とは何か、にまで広がっていく。
《イデオロギーの前にウチナンチュの人権、尊厳、プライドが傷つけられている。また新たに大きな基地を国が押し付けようとする。
今で言う強大なパワハラでしょ。理不尽なことを押し付けられるのに黙っていていいのか。もう黙っていないでウチナンチュ立ち上がろうよっていうのが「イデオロギーよりアイデンティティ」なんですよ。
僕の立ち位置は全然ぶれない。これは人権問題なんだと思っている。最低限の人権がないと経済だってうまくいかないでしょ。
アメとムチでいつまで沖縄がいじめられるのか。いい加減にしてくれと。自分たちのことは自分たちで決めたいんだということですよ。
対話、対話っていうけど対話というのは小さな声を汲み取ってこそ対話でしょ。知事が会いたいというのに4ヵ月も無視したのは誰なの。沖縄に対立と分断を持ち込んだのは誰なの。
沖縄の苦労に思いを寄せてくれる政治家もいたのに、いまの政権にはない。常に上からやってくる。》
彼が重んじるのはプライドである。自民党を支持しておけば、米軍基地を受け入れておけば沖縄の経済は安泰だ。そんな時代は終わりつつあるという。
《僕は商売人だから人権尊重・自由・平和。僕にとってはこれが一番大事。翁長さんになれば不況になるって言われたけど、観光が伸びたじゃない。これも論より証拠。
僕には土建屋としての夢がある。それはね、米軍基地の撤去工事をやること。僕がある選挙で応援演説したときに一番、受けたね。
(立候補者が)「金秀グループは米軍関連の工事はしない」っていうから、慌ててマイクを取り返して、「我々は米軍工事をやります。撤去工事をやるんです」って言ったの。
沖縄県民の所得は低いでしょ。ずっと全国最下位の216万。今までの政権が沖縄のために何をしてくれたんですか。政権の言う通りにやっていたから最下位なんですよ。沖縄のポテンシャルは観光にもサービス業にもありますよ。
無批判に従属するだけではダメなんですよ。》