「終わった…」

わたしが元夫に対して起こした裁判は、ほぼこちらの請求が通る形で和解が成立した。不法行為を認めて謝罪する一文も入れてもらった。

うれしいには違いなかったが、それよりこれまでの疲れがどっと出て、ふうう、とわたしはため息をついた。

弁護士事務所の門を叩いてから、一年半が経っていた。

高級住宅地の一戸建てに住み、子ども3人を育てながら何不自由のない暮らしをしていたものの、「夫に意見を言えない」という自分をおさえた生活に決別する決意をした藤野智子さん。その離婚の理由や経緯は過去の3つの記事に詳しい。

離婚後、実は「士業」である夫が自分の知識を利用して、妻の財産を勝手に名義変更したり引き落としたりしていることに気づいた藤野さんは、それまで「夫に反抗」を一切してこなかったにも関わらず、「闘うしかない」と決意した。そしてその判決が下された――。

<第一回高級住宅地に住む主婦が50歳を目前に離婚して、失ったもの」こちら 
第二回「妻の財産を身ぐるみはごうとした『稼ぎのいい』夫の陰謀」こちら 
第三回「50歳目前で主婦が離婚を決めた理由と、子ども達の『意外な本音』」はこちら>

 

立場を利用した夫の「身ぐるみ剥がす作戦」

結婚25年を過ぎた50歳目前で、わたしは離婚した。母子家庭で育ち、結婚生活に期待の大きかったわたしは、とにかく夫婦仲よく暮らしたかったが、そのためにはたくさんの我慢が必要だった。よりよい夫婦関係を求めたくても、元夫は話し合いを嫌い、気に入らないことがあるとわたしを拒絶する人だった。それでもと迫ったわたしに、暴力を振るったこともある。

子育てが終わりかけたある日、わたしは今後の人生を思い、離婚を申し出た。元夫は取り合わなかったが、2人の間に会話は消えた。そうして、わたしにはある出会いがあり、その人のことを好きになってしまった。

「好きな人ができたから別れてほしい」と告げたのは、そうすれば別れられるという思いと、嘘をつかないことが元夫に対する最後の誠意だと思ったからだ。元夫は、わたしを「愛しているから別れたくない」と言いながら、裏でわたしの不動産名義や貯金を自分名義に変更そのうえで、離婚を承諾した

元夫の工作に気づいたのは、離婚して2か月後のことである。

わたしは、元夫に「どういうことか?」と説明を求めた。しかし、元夫はのらりくらりと交わすばかり。その、わたしを舐めた態度が許せなかった。正しく怒るべきだと思った。元夫の言うなりに生きてきた長年の習慣からか、一瞬湧いてもすぐにシュウと萎んでしまう怒りを無理やりふくらませて、わたしは弁護士を頼むことにした。

弁護士は、友だちに紹介してもらった。彼は元夫が士業に就いていると知り、元夫のしたこと――無断でわたしの実印を使用し登記移転手続きをしたこと――は、国家資格をもつ立場と知識を利用した不法行為であると憤った。そして、闘いましょう、勝てると思いますよ、と。