2018.11.04
# フェイクニュース # インターネット

ネット世論操作で敵国を攻撃…フェイクニュースは「兵器」になった

国家の「統制」にも使われている
一田 和樹 プロフィール

カネはかからず、威力は抜群

アメリカ大統領選におけるロシアの干渉を捜査していたマラー氏が提出した訴状によれば、IRA(Internet Research Agency、SNS上で世論操作を行うためのロシアの組織)の年間予算は数百万ドル、前出の『真実と信頼の挑戦 組織化された世界のネット世論操作の一覧』によれば1000万ドル以上。日本円換算で数億円から10億円以上となる。だが、戦闘機の値段に比べたら極めて安価であり、コストパフォーマンスは抜群だ。

ハイブリッド戦の第一歩は国内を掌握することだ。ロシアも中国も最初に国内のネット世論を征圧している。

前述の48カ国の全てが国内に向けてネット世論操作を行っている。

 

フェイクニュースの威力を示す例として、金融市場にも打撃を与えたケースを紹介する。『フェイクニュースは証券市場に打撃を与えるか?(Can 'Fake News' Impact The Stock Market?)』(2017年2月26日、Forbes)によると、2013年、AP通信のツイッターアカウントが乗っ取られ、当時大統領だったオバマが爆発によって負傷したというニュースが流された。

その直後、瞬く間に1300億ドル(日本円にして13兆円以上)もアメリカの株式市場は暴落した。現在の金融市場は情報によって動いている。フェイクニュースは効果的に打撃を与えるのに便利な手段なのだ。

フェイクニュースで逆に株価を操作することも可能なため、そこに目をつけて金融専門のPR会社もできた。これらの会社のフェイクニュースとネット世論操作が金融市場を蝕んでいるため、証券取引委員会(SEC)が問題解決に乗り出し、いくつかの企業を摘発した。こうしたPR会社が日本円にして年間5億円以上の報酬を得ていたという事例もある。それだけの効果があるのだろう。

アジアでも猛威を振るうネット世論操作

アジア各国も同様の状況になっている。敵対する政党やメディアを「フェイクニュース」として批判し、処罰、追放することが行われているのだ。

2018年1月22日、ロイターは『東南アジアの指導者たちは「フェイクニュース」を口実にしてメディアを統制し、批判者を処罰する('Fake news' crutch used by SE Asian leaders to control media, critics charge)』という記事でいくつかの例をあげて、東南アジアで行われている政府によるフェイクニュースを口実にした言論統制の実態を紹介している。

インドではフェイクニュースを使いネット世論操作を行った政党が政権を取っている。右派政党BJPがトロール(書き込み要員)を雇い、敵対する政党や反BJPのジャーナリストを攻撃する書き込みを行わせたという調査が発表されている。

その代表的なサイトPostcard Newsに、ブッカー賞を受賞したアルンダティ・ロイという作家が、インド軍を批判したというインタビュー記事が掲載され、誹謗中傷にさらされた事件も起きた。もちろんその記事はでっちあげだった。

フィリピンやカンボジアでは政治家がネット世論操作戦略専門家を雇って世論操作を行うのが当たり前になっている。

フィリピンのドゥテルテ大統領は2016年の選挙の際、影響力のあるブロガーやボットなどで構成される「新政権ネットワーク」を配置した。さらに20万ドルをかけて「キーボードアーミー」と呼ばれる実行部隊を組織し、大々的なネット世論操作を行って当選した。

カンボジアでは対立する野党の党首をフェイクニュースで国家反逆を企んだとして逮捕、投獄した

政府による世論操作ではないが、シンガポールではオーストラリア国籍の日系人とその夫がヘイトとフェイクニュースのサイトを立ち上げ、11カ月で日本円にして4000万円相当を荒稼ぎし、逮捕された。

政府以外が流すフェイクニュースで特筆すべきはミャンマーだ。少数民族ロヒンギャに対するフェイクニュースとヘイトスピーチがネット上に広がり、70万人が国外脱出をよぎなくされ、国際問題となった。

これらの国ではフェイスブック、WhatsApp、ツイッターの利用者が多く、これらを利用してフェイクニュースの拡散や世論操作が行われている。

フェイスブックはネットがまだ普及していない地域に無償のインターネットサービスを提供しており、その結果フェイスブックとWhatsApp(フェイスブック傘下)が強大な影響力を持つにいたった。しかしフェイスブック社は自社のサービスがもたらした混乱に対処できておらず、事態は悪化の一途をたどっている。

またフェイクニュース産業とでも呼ぶべき業界ができあがっていることも注目に値する。発注者は主に政治家で、多数のトロールやボットを運用しているネット世論操作戦略専門家(PR戦略家と呼ばれているが、やっていることはSNSを通じた世論操作に他ならない)に選挙で有利になるようにネット世論操作を依頼する。

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