老いた巨人IBMは驚愕の「3・8兆巨額買収」でGAFAに勝てるか

買った会社の売上は「3000億円」

「規模の拡大」が狙いではない

一方、買収に応じたレッドハットは1993年、タイプライターのレンタルとパソコン用ソフトの販売を営んでいたボブ・ヤング氏がノースカロライナ州ローリー(Raleigh)に創業した。ライセンスフリー・オープンソースのOS「Linux」の初期バージョン「Slackware」や、オープンソースソフトウェアのカタログ販売会社が原点だ。ITベンチャーといえばカリフォルニア州シリコンバレーと相場が決まっていた当時、ノースカロライナ州というだけで注目を集めたものだった。

当時、メインフレームの集中処理からCSS(Client Server System、「クラサバ」と略された)へ、ベンダーロックインからオープンシステムへという時代の流れのなかで、OSS(オープンソースソフトウェア)のビジネスモデルは脚光を集めていた。創業から2年目、1995年の秋にラスベガスで開かれた米国最大規模のIT総合展示会・カンファレンスを訪れた時、会場の廊下ですれ違ったヤング氏を呼び止め、取材の約束をもらったことを覚えている。

創業者のヤング氏が経営から離れた翌年(2006年)、レッドハットはJBoss社を買収し、OSSベースのクラウドサービス基盤を確立した。2010年にはIBMをはじめ、アマゾン、NTT、ソフトバンク、富士通などとパブリッククラウド技術で提携している。穿った見方をすると、レッドハット社との関係強化をめぐるIBMとアマゾンの競合が、今回の巨額買収という強硬策につながったのかもしれない。

もう一つ考えさせられるのは、今回のM&Aは規模の拡大をねらったものではない、という事実だ。IBMが欲しいのは、OSSベースのハイブリッドクラウド技術だけではなく、世界中のエンジニアが寄ってたかって開発・配布、利用拡大に参加するオープンソース・コミュニティの「質」なのではないか。ガリバーはUNIXに代表されるオープンシステムに揺さぶられ、今度はオープンソース・コミュニティに屈した、と見ることもできる。

 

一方、日本のIT 業界は停滞まっただ中

340億ドルという買収額はIBMにとっては過去最高額だが、上には上がある。世界最高の買収額は、2002年2月に行われた英ボーダフォン・エアタッチによる独マンネスマンの買収2,028億ドル。米国のIT産業では2000年、アメリカ・オンライン(AOL)によるタイムワーナーの買収合併1,820億ドルがトップで、2006年のAT&Tによるベルサウス買収860億ドル、2015年のデルによるEMC買収670億ドルと続く。ちなみに、日本企業では武田薬品工業によるアイルランドのシャイアー買収6.9兆円が最高額だ。

企業のあり方や経営者の立ち位置、雇用の構造、契約の考え方などが違うので一概には言えないが、盛んに企業買収が行われてきた米国のIT産業と比べれば、日本のIT産業には停滞感が充満している。

米国では「IBM+BUNCH(バロース、ユニバック、NCR、コントロール・データ、ハネウェル)」とされた1980年代までの業界地図が、現在は「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)+マイクロソフト」に一変している。これに対して日本は、1980年代から「NFH(NEC、富士通、日立)+NTT」支配の構図が微動だにすることなく、現在も続いている。

筆者が取材を始めた1980年代初期のITサービス業の産業規模は、企業数約2000社・総売上高2000億円に満たなかった。それが現在は3.5万社・110万人・23兆円を超える。

数字だけを見ると、なるほど成長産業の一つには違いないが、急拡大の要因として「多重下請け」の深化があったことも否定できない。「真水」の売上高が4~5倍になっているのだ。会社が多すぎること、また高給取りの経営者や役員、総務・経理などの間接部門が多すぎることが、エンジニアの待遇を低くしているとも言える。

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