忖度社会ゆえ日本の変化は欧米よりも早い
例えば、日本は3世紀にもおよぶ鎖国を経て、明治維新という無血革命の後、富国強兵によって大変貌を遂げた。さらに、日清・日露戦争に勝利し、第1次世界大戦の戦勝国として世界の列強の仲間入りを果たした。
太平洋戦争においても、終戦の日まで日本を愛する若者たちの「特攻」は連合軍を恐怖に落とし入れた。だからマッカーサーは、日本の占領においては、負けを認めない抵抗勢力による大規模なテロや反乱を覚悟していたのである。
ところが、いざ日本に来てみると「熱烈歓迎」を受けて腰を抜かすほど驚いたという。
大政翼賛会の中心的存在であり、「鬼畜米英」の大本営発表を垂れ流していた某全国紙などの変貌ぶりはもちろんだが、「天皇陛下万歳」と叫んでいた日本国民もまた、文字通り一瞬で「ギブ・ミー・チョコレート」と唱和を始めたのである。
このように極めて重要な局面において日本が「超速」で変化できるのは、鴈の群れがリーダー無しで一糸乱れずに飛び、群れの形を自由自在に変えることができるのと同じである。
雁の群れが自由自在に変化できるのは、中央の指令に従っているのでは無く、ただ単純に隣の雁の動きに反応しているのである。同様に「同調社会」である日本も、人々はただ隣の人間の動きに反応しているだけなのだが、それが時として「激変」を引き起こすのである。
根回しは実は仕事のスピードを速める
また、日本企業との交渉では、「平社員から始まって経営陣に至るまで同じようなやり取りを繰り返さなければならない」とこぼす外国人も多い。
確かに日本企業の「意思決定」が遅いのは否定できないが、「意志決定」だけでは「仕事を完成」することができないことを忘れてはならない。
筆者は、フランスの銀行と英国のブローカーハウスの合弁である欧米系企業と、実質的に日本銀行の子会社である短資会社という典型的な日本企業の両方で勤務した経験がある。
その経験から言えば、欧米系の企業の意思決定が早いのは「意思決定機関」と「実行機関」が分離しているからである。
つまり、マネージャー(経営者)が自分の考えだけで、部下や現場の意見など聞かずに意思決定をすれば早いのは当たり前だということである。
しかし、そのような手法では、逆に意思決定してから仕事の完成までに膨大な時間がかかる。
突然指令を受けた部下や現場は、まずその指令の内容を理解するところからはじめ、実現に不都合なことがあればマネージャーにフィードバックしなければならない。仕事が始まってから、エンドレスなドタバタを繰り返すのが欧米流である。
先に準備しておけばなんでもないことでも、仕事がスタートしてしまってからではどうしようも無いこともたくさんある。結局、「意思決定」したあと頓挫するプロジェクトが多いし、実現にも時間がかかる。
それに対して日本企業では、現場から経営者までうんざりするほど長い時間をかけて根回しをするから、大方の問題点に対する対処は既に出来上がっており、いざ「開始」となれば「超速」で実現できるのである。意思決定した後の日本企業の行動の素早さは「音速・光速」だといえる。
だから、「実現」までのトータルの速さで言えば日本企業の方が速いといえる。
ただし、為替ディーリングのように、個人で完結するような仕事では「日本方式」は逆効果である。私も外銀のディーリングルームの中から、「根回し」で物事が動く日本の金融機関がカモにされているのを悔しい思いで観ていた。もっとも、最近では日本の金融機関もいろいろと学んで、欧米型にシフトしつつあるが……。