「ドラッカー患者学」の可能性
そういったことを踏まえて、私はこの4月に1冊の書籍を書いた。医療費削減を行い、同時に患者の健康度とQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上にも繋がる1つの道だと考えてのことである。それが、『治療格差社会──ドラッカーに学ぶ、後悔しない患者学』 (講談社+α新書)である。この本の意味を、同書の「はじめに」から引用してみたい。
国民皆保険、つまり、いつでも安く、良い医療を受けることができる現在の日本において、治療の格差が起きるのでしょうか。「起きて欲しくない」という期待も込めて、多くの人は「そんなことはない」と答えると思います。
私は、この治療格差の意味はふたつあると考えています。ひとつには、財政の制約において、現在のような手厚い国民皆保険でなくなったとき。言い換えれば、米国のようにお金次第で治療が変わってしまう社会、盲腸炎の手術で破産する人が出てくるような社会が到来したときが治療格差社会のひとつ目です。ただこの件は、オオカミ少年の話のように、そういう日が来るかもしれませんが、日本国内の金利もさほど高くない現在、こういったことは起きないかもしれません。
もうひとつ、私が本書で訴えたい治療格差は、考え方の違いによる治療格差です。つまり、医師などの医療者に、患者が思っていることをしっかり伝えることができるかどうかで受けられる医療が異なってくるということなのです。
日本人は、コミュニケーションや自己主張がうまくないといわれます。私は、日本人の医療不信や医療への満足度が低い原因は、ここにあるのではないかと考えています。特に、超高齢時代を迎え、患者さんの思いもさまざまですし、なによりその人のこれまでの人生経験や価値観をもとにした治療を受けることができるかどうかが、治療格差につながると考えます。この視点では、日本はすでに、治療格差社会だといえるのです。
そして、私が想像するに、ドラッカーがもし現代を生きていて、患者さんたちにアドバイスすることがあるとしたら、それは下記のような内容になるのではなかろうか。

ドラッカー患者学から皆さんにお願いしたい6つのこと
①医師には質問をしてください。
②現状を医師にドンドン話してください、ただ医師も忙しいので端的な話をお願いします。
③医師などの医療者が病気を治すのではなく主役は患者さんです。主役としての行動をお願いします。
④健診は受けましょう。
⑤安易な民間療法は危険な場合もあることをご認識ください。
⑥真摯に病気と向き合いましょう。かかってしまったことを悔いても仕方がないのです。
これは、国民一人ひとりの「患者学」であると同時に、国全体の問題にも直結するものだ。医療の質と効率・コストを両輪で考えなければ、国の医療財政の破綻を回避できない。医療費を低減し、一人一人が最期までよりよい人生を歩むために大切なヒントが、この「ドラッカー患者学」の中には含まれているのである。