「婚外子に財産を遺したい夫」vs「遺したくない妻」の壮絶バトル

新・争族の現場から④
江幡 吉昭 プロフィール

死後認知というカウンターパンチ

山田さんは妻へのカミングアウトの5年後、50歳を目前にがんでこの世を去りました。
自分を裏切ったとは言え、早すぎる夫の死に悲しんだ妻でしたが、それ以上に妻を驚かせたのは、夫がまたも自分に内緒にあることをしていたことでした。

山田さんは妻との約束通り、婚外子を最後まで認知することはありませんでしたが、公正証書遺言を遺していたのです。しかも、その遺言の中にはこう書いてあったのです。

「彼女との子供を認知する」(ほかの財産を誰に相続させるかの記載はありません。)

 

これは専門用語で、「死後認知」と呼ばれるもので、遺言に残すことで、自分の死後に婚外子を認知するというもので、実はよくあるものなのです。

しかし、妻としては到底納得できるものではありません。

婚外子を認知しないという約束をしたのに、それを破って密かに遺言で実現しようしていたこともありますが、それだけではありません。法定相続分と遺留分に大きな影響を与えるからです。

今回のケースでは従来であれば、

妻と子供の取り分(法定相続分)は、死後認知がなければ100%。つまり全財産を妻とこどもが相続できるはずだったのですが、婚外子が認知されたことでこの子供の法定相続分が発生したため、75%まで削減されてしまうのです。

遺言による死後認知というカウンターパンチをくらった妻ですが、妻の側も最悪の事態を想定してある対策を取っていました。それは生命保険です。

隠し子の存在が判明して以降、家計の管理方法を大きく変更しました。それまでは基本的に夫が家計を管理して、妻に生活費を渡していたのですが、逆に定額の小遣いを夫に渡すようにしたのです。必要以上のお金があるから浮気をした、お金がなければ浮気もできないだろう、という発想です。

こうして家計の実験を握った妻は、毎月の夫の給料の中からコツコツと積み立て貯金をすると同時に、更に多くのお金で生命保険に加入していたのです。保険金の受取人は妻自身と子供です。もちろん山田さんも契約書にサインをしていますから保険に入ることは了解していましたが、死亡保険金の本当の意味を、山田さんは気づいていませんでした。

死亡保険金は、原則として民法上の相続財産ではありません。つまり、遺留分減殺請求の対象外の財産なので、仮に夫がこっそり愛人の子を認知しても、保険金だけは、全額自分と子供が受け取ることができる。

遺言で死後認知ということができると知った妻は、最悪の事態(死後認知)に備え、夫の死亡時に、極力死亡保険金で多くを得られるように準備していたのです。

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