種子法廃止で「得する人たち」の狙いと思惑

なぜ十分な議論なく法案は通ったのか

種子法は、なぜ突然廃止になったのか?

2017年の4月14日。森友問題が騒がれ国会が紛糾する中、農家や一般国民の知らぬ間に、法案は通ってしまった。十分な議論のないままに。

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その背景にあるのは、やはり環太平洋パートナーシップ(TPP)協定だ。

トランプ大統領がTPP離脱を宣言した際、TPP協定そのものが危ぶまれる中、締結にこぎつけたい日本政府は、急いで種子法廃止を閣議決定している。そしてアメリカ抜きでもやろうと参加国に訴えた。

TPP協定は、関税を段階的に撤廃し、多国間の自由貿易を活発にするものだ。日本の輸出産業にとってはメリットが大きいとされる。そして先頃2018年内の発効が決まった。

自動車を始めとする製造業の輸出については、大きなメリットが生まれるが、畜産農作物については、これまで高い関税をかけて国内を保護してきたため、関税が撤廃されれば、海外の安い農産品が入ってくることになる。

日本の米には高い関税がかけられており、何度も海外から批判されてきた過去がある。製造業を優先し、農業で譲歩する形となってしまった。

そのTPP協定の中の第18章に「知的財産章」があり、この内容に沿う形で、国内法の整備を急いだのだ。

また1991年に締結された「植物の新品種の保護に関する国際条約」、通称 UPOV(ユポフ)条約がある。これは、新しく育成された植物品種を各国が共通の基本的原則に基づいて、開発者の権利を保護する条約だ。TPP参加国には、このUPOV条約への批准を義務付けており、当然日本も守らなければならない。

国内の品種育成者の権利を守る「種苗法」も、種子法が廃止された2018年4月の翌月に改正されている。

ここには種の自家採種(増殖)禁止が謳われており、買ってきて栽培した作物から種を採取し、翌年蒔くことが原則できなくなった。これに違反すれば、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金だ。一部例外もあるが、今後の対応によっては農家に大きな混乱が生じるであろう。

 

種は知的財産、特許ビジネスの標的となった

種子は人類のみならず地球生物全体の資産であったはずが、今や人間が作り出した知的財産という儲かる「商品」となっている。

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農業にかかわらない一般の人は、種子が特許の対象になると聞いて驚くのではないか。正直私自身、驚いたとともに、なんとも言えない違和感と不安を感じた。人類を含め地球生物の共通の資産であった種子が、今特定の企業に独占されようとしているというと大げさだろうか。

法律に則れば、知らずに手に入れたF1種や遺伝子組み換え作物の種であっても、栽培したり自家採種したりすれば、特許侵害で訴えられてしまう。

巨大バイオ企業でも、ゼロから作物を作ることはできず、地球が育んだ作物を部分的に操作したに過ぎない。しかし一方で、品種開発の投資コストを回収するのは、資本主義の世の中では当然という見方もできる。種子もビジネスの対象なのだ。

種苗の特許を押さえ独占的に利益をあげる為に、今や種子の開発は熾烈な特許取得競争となっている。

いったい作物の遺伝資源は、誰のものなのだろうか。生物や植物の遺伝子特許を認める・認めないという議論もあり、各国の裁判でも判断が分かれるところだ。

多国籍バイオ企業の目指すもの

遺伝子組換え食物の販売や、発売した除草剤の発ガン性・健康被害問題で有名になったアメリカの「モンサント」は、もともと化学薬品メーカーで、ベトナム戦争で使用された枯葉剤も製造していた。

モンサントのロビー活動は有名で、とことん自社の利益を追求するイメージを抱かせる。国会議員や政府機関にも入り込んで、日本の外交交渉においても非常に手強く、難しい条件を突きつけてきているのではないかと想像してしまう。

実際に、農薬の残留基準値が2017年12月に大幅に緩和されていることも気がかりだ。2015年10月に起草され、2016年2月に署名されたTPP協定の後、着々と日本政府が国内法の整備を進めていることがわかる。

モンサントを始めとする世界の大手化学メーカーは、種苗会社の買収を繰り返し巨大化してきた。種と農薬のセット販売・特許ビジネスが大きな利益を生んでいる。

ドイツの製薬・化学大手「バイエル」が、2018年6月に約630億ドルでモンサントの買収を完了した。世界中から向けられている悪い企業イメージを払拭したい思惑もあるものと思われるが、バイオメジャーと呼ばれる多国籍バイオ企業の再編が進んでいることが大きいという。

アメリカ大手のダウ・ケミカルとデュポンの経営統合、世界2位のスイス・シンジェンタも中国化工集団(ケムチャイナ)が買収しグループ化。そしてドイツ・バイエルのアメリカ・モンサントの買収。バイオメジャーの力は、どんどん増してきている。

アグリビジネスと呼ばれるようになった農業関連産業は、ますます寡占化が進んでいく。巨大バイオ企業の思惑通り、国際条約、各国の国内法の整備が着々と進み、自由貿易の中で、種苗の特許を独占し、化学メーカーとしての農薬を販売していく。このままでは世界の農業の形が歪められ、特定の巨大企業の意向で物事が決まりかねない。

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