育てられない子供を引き取るNPO法人が感じている「ある変化」

育てられない母親たち㉕
石井 光太 プロフィール

なぜすぐに「その結論」に達するのか…

岡田によれば、ダウン症の子供は人懐っこさがあるし、親がいればしっかりと育つという。障害児がいることで、家族やきょうだいの団結がつよまることもある。

私自身、ダウン症の子を持つ知人が何人かいるが、いずれも子供に惜しげない愛情を注いで温かな家庭を築いている。子供もみんないい子で、決して懸念すべきことばかりではないのは明らかだ。

夫婦がダウン症の子の育児を負担だと思うのは自由です。でも、何カ月か育ててみてダメだという結論に至って特別養子に出そうというのならわかるんですが……出生前診断の結果だけで判断したり、保育器越しに何回か見ただけで育てられないというのはちょっとちがう気がする。出産直後に目に見える障害だけで判断しないでほしいというのが本音です

 

障害は、生まれてすぐに判明するケースだけにかぎらない。知的障害にせよ、発達障害にせよ、二歳くらいになってようやくわかることも珍しくない。

また、五歳、六歳になって先天的な病気が見つかったり、難病になったりすることだってある。

多くの夫婦は、障害や病気が後からわかっても子供をかわいがるし、育てていこうとする。こうしたことを考えれば、なぜ出生前診断の結果だけで簡単に手放してしまうのかと岡田が感じるのも当然だろう。

では、ダウン症の子供を特別養子に出そうとした時、簡単にそれは認められるものなのだろうか。

親の方は簡単に特別養子に出せると思っていることがほとんどです。でも、特別養子縁組は裁判で認められなければなりません。やむを得ぬ事情があって、それが正当だとされなければならないのです。したがって、親が手放す理由によっては裁判で認められないケースもあるのです

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裁判で認められなかった例と、認められた例を紹介したい。

裁判で認められなかった例

その夫婦はそれなりの仕事についていて高給をもらっていて、一軒家を構えて暮らしていた。長男が一人おり、その下に生まれてきた長女がダウン症だった。

母親はダウン症の長女を授かったことに動揺を隠せなかった。幼い頃にきょうだいが事故に遭って障害を抱え、苦労した体験があったのだ。この子を引き取れば、家庭が崩壊してしまう……とまで思ったという。

母親は夫を説得してから、Babyぽけっとに連絡をした。そしてこう頼んだ。

「長女がダウン症なんです。とても育てられないので特別養子に出したいと思うので、お願いいたします」

岡田は親が育てないと言っている以上やむをえないと判断し、その子を引き取って不妊症の夫婦に託した。その後、家庭裁判所に申し立てをしたが、調査官が実親のもとを訪れて調査をした。家が経済的に豊かであり、長男を育てていること。それに長男が「妹に会いたい」と言っていることなどを突き止めた。そして、特別養子を認めるまでの理由にはならなず、実親が責任をもって育てるべきではないかと指摘された。

裁判で認められた例

旦那・妻ともに弁護士をしている夫婦には、男の子が二人いた。少し年の離れた末っ子として、ダウン症の子が生まれた。未熟児だったので、その子はしばらくNICU(新生児集中治療室)に入院することになった。

母親は先に退院することになったが、末っ子がダウン症であることを知ってうつ病になった。父親は育てたいと思っていたが、母親の方は「育てる自信がない」「仕事もできなくなる」と言って受け付けなかった。

夫婦で話し合う度に、母親はどんどん精神的に追い詰められていく。彼女が通いはじめた心療内科の医師からはこう言われた。

「奥さんはうつ病で限界に来ています。このままダウン症の子を引き取ることになったら、一緒に心中をすると言っています」

父親も彼女の精神状態が尋常でないことを察して育てることを諦め、特別養子縁組に出すことに決めた。そしてまだNICUに入っている時点で、退院と同時に引き取ってくれないかとBabyぽけっとに依頼したのだ。

岡田はその連絡を受けて、やむをえない案件だと考えた。ダウン症の子以外にも、二人の兄がおり、万が一その子たちも一緒に心中をされてしまったら取り返しがつかない。結局、その子を引き取って別の夫婦に特別養子に出すことにした。

裁判でも、妻のうつ病が考慮され、特別養子縁組が認められることになった。

裁判では、ダウン症だからという理由だけでは特別養子縁組が認められるわけではない。この例のように、やむをえない事情があるかどうかが基準になるのだ。

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