いつか、その後の人生を
藤波さんと小林さんは同じ前方のテーブルだった。なぜか服部さんだけがぼくたちと同じ後方のテーブルになっていた。服部さんは長州さんよりも年上であるにも関わらず「正男」と呼び捨てにしている。わざと邪険にすることが愛情表現なのだ。
服部さんは73歳になった今もレフェリーとしてリングに立ち続けている。
「こんなに長くプロレスに関わると思っていなかったんだよ。(長州さんの本名、吉田)光雄やマサ(斎藤)さんに出会わなきゃ、とっくにやめていただろうな」
服部さんは今も週三、四回はジムに通い、エアロバイクを中心にトレーニングを続けていると言った。
やがて披露宴が始まった。藤波さんの隣の席が空いていた。小林さんが来ていないのだ。
小林さんが現れたのは、それからしばらくしてからのことだった。小林さんによると、同じ駅の別の披露宴場に行っていたという。
「ちょっと間違えちゃってさ」
さらに――。
服部さんが隣に座っていた集英社の手島裕明さんに「今日は祝儀は払わないの?」と訊ねた。
次の瞬間、みなが「もう渡しましたよ」と口を揃えた。服部さんは受付を通り過ぎてきたのだ。慌てて服部さんは立ち上がると部屋を出ていった。
自然にしていても何かが起こるのが、プロレスラーの世界である。それが失敗話であっても、愛嬌のある彼らは絵になる。

披露宴の後、長州さんの関係者だけで六本木の二次会に移った。いつものように、長州さんはにこやかな表情で泡盛の珈琲割りを飲み続けていた。
来年、長州さんは〝二度目〟の引退をする。彼の性格を考えれば、復帰はない。プロレスラーとして本当に「Fin」である。
ただ、彼の人生はその後も続いていく。いずれ、その後の話も書きたいと思っている。

(長州力さんのブログでも、この結婚式の模様について書かれています。ぜひご一読ください。長州力ブログ『LISTEN TO POWER HALL』https://ameblo.jp/rikichoshu/entry-12423243978.html)