「ブロックチェーンは銀行をどう変えるか」についての、ある予測

「次世代の銀行」について語ろう
若林 恵

Hiding in Plain Sight

―最初におっしゃった、ブロックチェーンが銀行にラジカルな透明性をもたらす、というのはどういう意味だったんでしょう?

ブロックチェーンは、新しいテクノロジーを非常に興味深いやり方で使うことを可能にしてくれるんだ。『ロード・オブ・ザ・リング』は観たことある?

―ええ。好きですよ。

あのなかで、ガンダルフたちがパブで騎士と落ち合うシーンがあったでしょ。

―はいはい。

その騎士はずっとお店の奥にいたんだけれども、他の人からは見えなくて「姿が見えなかった」と言われると「自分が見られたくないと思えば、誰にも見えない」と語るんだ。それは「Hiding in Plain Sight」(丸見えなのに見えない)という能力で、ファンタジーの世界では知られた能力なんだけど、新しいテクノロジーはまさにそれを可能にしてくれるんだ。これはとても重要な技術で、しかも、反直感的なやり方でそれを可能にする。

―どういうことですか?

あるデータをブロックチェーンで共有するでしょ。そのときに、この技術は、摩訶不思議なことを可能にするんだ。「ホモモーフィック・エンクリプション」という技術で、暗号化されたデータを解析することができる。

例えばブロックチェーン上に、君の会社のデータや記録が書き込まれていたとして、それは特定のやり方で暗号化されているので他人が見ることはできないのだけれども、見えないのにもかかわらず、特定の計算や解析をすることはできるんだ。それによって、君の資産が信用と見合っていないことを、細かい財務データを見ることなく分析することが可能になるんだ。すごいだろ?

―面白い!

 

というわけで、ブロックチェーン上でデータを共有しながら、見せたくないデータは見せないまま、外部から例えば君が本当のことを言っているかどうかを解析することができるんだ。ぼくはそれを「Translucency」って言ってるんだけどね。

「Translucent」というのは「半透明の」という意味で、ほらよくあるでしょ、半透明のガラスって。向こうからだと、こちらに誰がいるかはわからないんだけど、誰かがいることはわかってシルエットは見える。半透明っていうのはいいことばだよ。

―たしかに重要なキーワードですね。

もうひとつブロックチェーンが可能にすることは、俗に「ゼロ・ナレッジ・プルーフ」ということだ。これはブロックチェーン上にデータを蓄積していくのではなく、その代わりに、ブロックチェーン上にデータに関する証明を置いておくというやり方だ。

これのわかりやすい例を挙げよう。例えば、お酒を買うために自分が20歳以上であることを証明しなくてはならないときに、相手に生年月日を渡す代わりに、自分が20歳以上であることを示す、コンピューテーショナルな証明を相手に渡すことができればいい。つまり、自分があるグループに所属していることが証明されればよくて、この場合、自分が20歳以上の人のグループに属しているということの証明があれば十分なんだ。かつ、暗号によって、そのグループのどの人物が君なのかを相手は特定することができない。そういう仕組みになっているんだ。

―すごいですね。めちゃいいじゃないですか。

プライバシーや個人データ保護、GDPRなどが、これからの世界におけるビジネスの基本的な要件になっていくなか、ブロックチェーンでデータを共有しながらデータベース自体は見せなくてすむこうした技術は不可欠なものになっていくだろうね。ぼくは、こうした技術がもたらす環境を「アンビエント・アカウンタビリティ」と名付けているんだ。

―かっこいい。

環境自体のなかにアカウンタビリティ、つまり「説明責任」が埋め込まれているということだね。そのなかでは、君がぼくに、架空の株を売りつけたりすることはできない。それができない環境になっているんだ。二重支払いもそこでは起きない。存在しえないんだ。

―すごいですね。

それが温暖化を食い止めるのか、難民問題を解決するのかと聞かれても、たぶん無理、と答えるしかない。それは魔法ではないからね。ただ、それによって、より透明な金融市場をつくることができるかと聞かれたら、その可能性はあると思う。なぜなら、現在の市場よりもそれは安く運営できるし、規制にかかるコストも下がるからだ。そして、そうしたものが登場することを、銀行は恐れる必要はないはずだ。

関連記事