がんは「生活習慣病」だ! 万病を退けるために覚えておくべきこと

知られざる万病のもと「慢性炎症」とは
宮坂 昌之 プロフィール

300年前の知見に学ぼう

こうした最新の研究成果をまとめて、慢性炎症の危険性を免疫学の視点から解説したのが講談社ブルーバックス『免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か』である。この本では、まず「炎症とは何か」、そして「どうして炎症が通常は収まるのか」について説明をするとともに、「どうして炎症が慢性化するのか」、そして「なぜ慢性炎症が万病のもととなるのか」などについて、なるべく平易な言葉を用いて解説している。

特に、元気で毎日を暮らしたい人たちには是非知ってほしい「慢性炎症に関する常識」を提供している。また、アトピー性皮膚炎、喘息を含むアレルギーや関節リウマチのような慢性炎症性疾患ですでに悩んでいる人たちに対しては、最新の慢性炎症研究の進展について紹介するとともに、新たに開発されつつある治療法についても情報提供を図った。

また、最後の章では、毎日サプリメントを服用するよりも、慢性炎症を予防するためのすべを知り、普段からそれに従うことのほうが大事であることについて強調している。

実は、これは何も新しいことではなく、今から300年も前に貝原益軒によって著された『養生訓』に書かれていることである。それを引用しながら、現代の言葉で慢性炎症の予防の重要性を改めて説いているのである。

貝原益軒貝原益軒 Photo by Kodansha Photo Archives

がん免疫治療のしくみ

炎症反応には、反応を進めるアクセル役にあたる分子群と、反応を止めるブレーキ役にあたる分子群の存在が重要であり、このアクセルとブレーキのバランスによって炎症反応の程度や持続性が制御されることが最近の研究からわかってきた。

アクセル役にあたる主なものは、炎症性サイトカインとよばれる一群のタンパク質であり、これらの分子の働きを止めると、炎症反応を収めることができる。実際、最近の慢性炎症の治療に非常に効果的に応用されているのが、このアクセル役の分子の働きの抑制である。

一方、ブレーキ役の分子の機能制御も医学的に役に立つことがわかってきた。この本の執筆中に、2018年度のノーベル生理学賞・医学賞が京都大学の本庶佑氏、テキサス大学のジェームズ・アリソン氏に与えられた。彼らの功績は、免疫反応のブレーキを解除すると、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃を再開できることを明らかにした点にある。がんの中には免疫系に対するブレーキを密かに持っているものがあり、このブレーキの働きを人工的に止めるとがん細胞に対する免疫反応が始まり、がんが排除されることが明らかになったのである。

免疫反応は白血球による反応であり、炎症反応の一種である。人為的にがん細胞に対して炎症反応が起こるようにしてやると、自らの免疫系によりがん細胞を殺せるようになるのである。

これまで、病原体に対する炎症反応は生体防御に必須である一方、長く続く炎症は正常組織に傷をつけると思われてきたが、「事実は小説よりも奇なり」であり、がんの組織の場合にはタイミング良く炎症を起こしてやることにより、がん細胞を殺せる場合があることがわかったのである。これは面白い発想の転換である。

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