2019.02.17
# 科学史 # 本

日本列島が真ん中辺りで折れ曲がっている理由、知ってた?

フォッサマグナをわかりやすく解説!
齋藤 海仁 プロフィール

正解ではないが、画期的だったナウマンの論文

フォッサマグナがなぜできたのかについてはまだいろいろと謎が多いそうだけれど、大陸が裂けて日本海ができたのは、地下深くのマントルから上昇してきた「火の玉」のせいらしい。

マントルは地殻の下にある岩石で、温度が高くなると半固体や液体になり、比重が軽くなって周囲の岩石を溶かしながら上昇する。マグマはマントルが高熱で溶けて液体になったものだ。すると、下から押し上げられた地殻が「チーズを折り曲げたように」裂けて陥没し、おかげでその部分の活動はますます活発になる。これが続けば、地殻が割れつつ拡大するらしい。

 

実は、これと似たような現象は地球規模で起きている。

太平洋、大西洋、インド洋などの大洋の海底には、数千キロ規模の長大な海底山脈が走っている。これを「中央海嶺」という。中央海嶺の下では高温のマントルが上昇し、活発な火山活動が起こっていて、日々新しい海底が生み出されている。

この新しい海底こそプレートの供給源だ。したがって、プレートはこの中央海嶺から押し出されるように移動する。これを「海洋底拡大説」という。だが、プレートが生まれてばかりではすぐに行き詰まってしまうから、どこかで消失しなければならない。その場所が、プレートがマントルまで沈み込む「海溝」である。

その名の通り、中央海嶺はたいてい大きな海の中央付近にあって、海溝は大陸の周辺にある。つまり、プレートは大洋の中央で日々生まれ、大陸の縁まで移動しているのだ。これがプレートテクトニクスの骨子である。プレートテクトニクスは海洋底拡大説を元に生まれた学説だった。

プレートテクトニクスが成立した1960年代以前は、地球の表面に山脈や海溝といったデコボコが存在することをうまく説明できる理論が存在しなかった。そのため、さまざまな学説が提唱されていた。

主流だったのは、干からびたリンゴのように、地球が冷えて縮んだためにできたシワが山脈や海底になったという「地球収縮説」。逆に、もともとは広く大陸で覆われていた小さな地球が膨脹して、陥没したところに海ができたという「地球膨脹説」。それから、地球は小さな惑星が集まってできたもので、重力によって収縮して凸凹しているという「微惑星仮説」。水平方向の移動はほとんど考えず、地殻の沈み込みとマグマの上昇や隆起運動の組み合わせによって地層の成り立ちを説明する「地向斜造山論」等々。

もはや小学生でさえ大陸が移動することを当たり前と思っている今からしたら、どれも笑っちゃうくらい珍奇な説に思えるかもしれない。裏を返せば、プレートテクトニクスがそれだけ革命的だったということだ。

話は少しそれるけれど、プレートテクトニクスの源流はウェゲナーの大陸移動説である。ウェゲナーといえば、大陸移動説を発表当時に学会で袋だたきにあった不遇の学者として有名だ。

大西洋を挟む両大陸の海岸線のデコボコがよく似ていることから、ウェゲナーは大陸移動説を思いついたという。17世紀以来、哲学者のフランシス・ベーコンをはじめ、両大陸の海岸線が一致することはたびたび指摘されてきた。そして、大陸移動説を最初に発表した学者ではないものの、大陸移動説をきちんと科学的に検証した最初の学者がウェゲナーだった。

ウェゲナーは大陸移動説を1912年に発表したものの、学説が受け入れられたのは彼の死後だった。1950年代後半に古地磁気学が発達し、たとえばインドが過去7000万年の間に5000キロ以上も北に移動したというように、大陸移動説を裏打ちする新たな証拠が次々に見つかった。さらに海洋底拡大説が加わって、プレートテクトニクスが成立したことはすでに述べたとおりである。

一方、ナウマン博士がフォッサマグナを論文に書いたのは1885年(フォッサマグナと命名したのは1886年の論文)。このなかで、ナウマンはフォッサマグナができたのは伊豆半島から小笠原諸島にかけての「七島山脈」が南から本州に衝突したためと説明していた。いわば山脈移動説である。

この説明はフォッサマグナの成因としては正しくない。とはいえ、完全な誤認でもない。なぜなら、伊豆半島から小笠原諸島に至る火山が載るフィリピン海プレートがフォッサマグナに衝突したのは事実だからだ。中央構造線が天竜川のあたりで急に曲がることを思い出してほしい。これはまさに伊豆半島が本州に衝突した名残りである。

ウェゲナーに先んじること27年、ナウマンの時代に山脈が水平移動してフォッサマグナが出来たと考えたのはむしろ卓見というべきである。そして、ナウマンの業績は高く評価されたものの、やはりこの山脈移動説だけは当時の学界には受け入れられなかったことを付け加えておく。

フォッサマグナからずいぶん話は広がってしまったけれど、おそらくカタくて地味な話に最後まで付き合ってくれてありがとうございました。

フォッサマグナのことをもっと知りたいという人には、フォッサマグナミュージアムはもちろん、『フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体』(藤岡換太郎/講談社 ブルーバックス)もおすすめです。糸魚川まで行くのはたいへんだという人も、この本を読んで、地質学に興味を持ってもらえたらうれしいです。無理だって? いやいや、そうでもないんじゃないかな。少なくとも、次に日本地図を見たら、きっとフォッサマグナと中央構造線がアナタにも見えてしまうはずだから……。

ナウマンの発見以来、この地形は幾多の研究者の挑戦を拒みつづけ、その成り立ちも、本当の境界線はどこにあるのかさえも、いまだに謎に包まれている。確かなのは、世界を見渡しても、このような地形はほかに類がないということだけなのだ。
いったいフォッサマグナとは何か? 「山」「海」「川」「石」を明快に解説した一連のブルーバックスが好評を博す地球科学の大家が、それらの知見を総動員して、縦横無尽に「怪物」に斬り込む!


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