「住みたいまち」の真実
多くの人が住みたいと望むまちは、当然の結果として多くの人が移り住み、人口が増えるはずだ。

ところが、実際はそうなっていない。「住みたい区」の順位と2010年~2015年の人口増加率の順位間の相関係数(スピアマンの順位相関係数法による、以下同)は0.42にとどまる。
理想と現実が一致しないのは、住みたいけれど住めない人が多いからだという指摘は必ずしもあてはまらない。「住みたい区」トップの港区の人口増加率は2位。「住みたい区」3位の千代田区の人口増加率は1位。その一方で、「住みたい区」2位の世田谷区は人口増加率が15位。
家賃も物価も高い港区や千代田区なら、「住みたいけれど住めない」人が多いだろうと考えられるが、実態はそうなっていない。
蛇足になるが、「住みたいまち」と人口増加率が相関しないのは、23区に限った話ではない。
例えば、「住みたい自治体」の関東全体のランキングで、2017年まではトップ10入りし、2018年でも12位と高位を保っている鎌倉市は人口が減っている。
リクルート社の調査名には「みんなが選んだ」という冠がつく。調査に答えたのは普通の人たち。都市問題を研究している学者や、不動産ビジネスのプロが回答を寄せたのなら、人口の動向をはじめとした今日的な状況や将来的な見通しなどが調査結果に反映されてくる。
しかし、プロではない人にそんな難しいことを求めても無理。あくまでもいまという時点を切り取ったときの、漠然としたブランドイメージが結果となって現れてくる。
実は、「住みたい区」の順位と強い相関を示す指標がある。地価と所得水準だ。2018年1月1日時点での各区の住宅地の平均地価(公示地価)の順位と「住みたい区」の順位相関係数は0.82。所得水準(『統計でみる市区町村のすがた』に基づく、2016年の納税義務者1人あたりの課税対象所得額)との順位相関係数はなんと0.91。ほぼ一致している(表参照)。
地価が高く、お金持ちがたくさん住んでいるまち。それは私たちの憧れであると同時に、不動産事業者にとっては儲けが大きい「売りたいまち」にほかならない。だから彼らは、より多くの甘美な情報を流し、ブランドをますます高めようとする。
「住みたいまちランキング」の提供者の多くが不動産関連事業者であることを考えると、これは彼らの情報宣伝活動の一環なのかもしれないとさえ思えてくる。