次は生徒たちの意識改革が必要になる。工藤校長は、手始めに宿題の全廃に踏み切る。
学校から強制される膨大な宿題を前にすると、生徒は〝こなす〟ことのみに意識が向かい、解ける問題だけを解いて、解けない問題はそのままにして提出してしまう。
しかし、工藤校長は「勉強は、できないものを、できるようにするためにある」と考えて、無意味な宿題を廃止した。
「やらされる学習」ではなく、生徒が自ら学ぶ仕組みを作る。この考えから宿題だけでなく、中間・期末テストもやめてしまった。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏はこう解説する。
「工藤さんは、中間テストや期末テストを全廃しましたが、すべてのテストをなくしたわけではありません。代わりに、単元ごとのテストや小テストを行っているので、テストの回数自体はむしろ増えているのです。
短い期間で確認テストを行うので、授業についていけなくなる子供は減っていきます。また、とりこぼしがあった場合には、もう一回単元テストを受けることもできるので、わかるようになるまで、自分で自習できる。
こうして自分からアプローチしたことが成功していくと、おのずと勉強が苦手だった生徒たちも自信がついていくのです」
全員が楽しんでいるか?
さらに工藤校長は、生徒たちが、自らの頭で考えるのを促そうと、ノートの取り方の見直しにまで手を付けた。授業中、単に黒板を写すのでは思考が停止してしまう。
そこで、方眼ノートに線を引かせ、左ページの上に「ねらい」「結論」を、右ページに「気づき」「疑問」「まとめ」を書かせた。その結果、授業中の集中度が高まったという。
また、ビジネス用のスケジュール帳を導入。帰宅から就寝までの自由な時間に何をするかを書かせることで、生徒は自らの生活をコントロールするようになった。
工藤校長の言う「当事者意識」が教員にも生徒にも確実に浸透していった。
改革は、学校の制度にも向けられた。1クラスに1人担任の教員がいる「固定担任制」を撤廃し、「全員担任制」を導入した。
工藤校長は、固定担任制の弊害についてこう語っている。
「固定担任制では、子どもたちや保護者にとっての学級の良し悪しは、多くの場合、担任に紐づけられる傾向があります。
学級の中で問題が起きれば、子どもたちや保護者は安易に担任のせいにしたり、また担任の方も自分で問題を抱え込んでしまったりする状況が生まれていきます」
当たり前と思っていたものを見直し、時には廃止を決断。
情熱と論理を兼ね備えた改革者が、日本の教育に楔を打つ。
発売中の週刊現代ではこのほかにも、体育祭でのクラス対抗の廃止など、改革事例について紹介。さらに、工藤校長の人物像にも迫り、成功の鍵について特集している。
「週刊現代」2019年2月2日号より
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