他の科学分野に比べると、化学の世界にはあまり一般にも名の通った天才科学者というのは少ないように思います。物理学のアインシュタイン、シュレーディンガー、ホーキングといったスーパースターに比肩しうる知名度の化学者は、残念ながら見当たらないようです。
しかし、もちろんこの分野に天才がいないわけではありません。
11歳のときに化学論文誌を耽読した早熟の天才
有機化学分野で真っ先に名があがるのは、やはり1917年生まれのロバート・バーンズ・ウッドワードでしょう。
6歳のころに化学に興味を持ち、11歳のころには専門の研究者が読む学術誌を取り寄せて読みふけっていたといいますから、早熟にしても桁外れです。19歳で学士号、その翌年(!)には博士号を取得し、研究の道を一筋に歩み始めます。

1950年代中頃のロバート・バーンズ・ ウッドワード photo by gettyimges
1944年、27歳でキニーネの人工的合成を達成したことで、ウッドワードの名は一躍世界にとどろきます。
キニーネはマラリアの特効薬で、第二次世界大戦の戦場において需要が高まっていたのですが、この頃はその産地が日本軍によって押さえられていました。ウッドワードによる人工合成は、連合国の科学の力を見せつけるものとして、大きく喧伝されたのです。