2019.02.02

さよなら「銀行」!? 2019年4月から金融機関に起こること

『捨てられる銀行』シリーズ著者が解説

過去に縛られた検査マニュアルは廃止 

『捨てられる銀行』の帯では、「金融検査マニュアルは廃止」と予言した。

1999年に誕生し、この国の金融の憲法として君臨し続けた検査マニュアルは、約20年を経て遂に廃止が決まった。

貸出先の企業などにおける過去の倒産・貸倒の実績に偏重した融資管理を求めていた検査マニュアルは2019年3月末をめどに廃止される。

金融庁は新たな融資管理の指針を取りまとめ中だが、4月以降は、国際会計基準や米国会計基準の見直しに伴い、将来キャッシュフローや将来損失に寄り踏み込んだ方向へ見直される公算が大きい。

もちろん、金融庁は数年の移行期間を設けるだろうが、いずれにせよ、これから銀行が生き残るためには、取引先の担保・保証ではなく、将来返済能力を見極めるという「未来に向き合わなければならない」という現実が待つ。

2017年4月に上梓した『捨てられる銀行2 非産運用』は、投資信託の回転売買や手数料の高い保険商品を「顧客資産の収奪」を前提にして売りつける日本の資産運用の異常さと、一方で、資産運用業界の真の活性化に向けて動き出した改革を取り上げた。

個人金融資産1800兆円のうち実に900兆円あまりが現預金となっていることが、市場の活性化にも年金の効果的な運用にも企業の成長にも国内総生産(GDP)の押し上げにも繋がらない構造的要因である。

このことは金融関係者ならば誰もが認識しているにもかかわらず「貯蓄から投資へ」という掛け声は空回りしてきた。

人口減少社会において資産運用こそが最後の有力な成長産業であることは明らかなのに、銀行・証券グループでは資産運用会社の地位はあくまで低く、銀行や証券会社で出世を極められなかった者が余生を肩書で送る「天下り先」として貶められてきたのだ。米国では最も優秀な学生が誇りを持って資産運用会社を志すのとは雲泥の差だ。

収益環境が厳しいために、この期に及んで現場レベルで投信の回転売買と手数料の高い保険商品を優先して売りつけている銀行もある。

森長官から遠藤長官に代替わりしても、「そもそも金融商品販売は顧客の役に立っているのか?」という金融庁の本質的な問題意識は揺らいでいない。

そして、前述した未来重視型の融資管理という国際的な潮流から日本の銀行だけが目を背け続けることは現実的ではない。

顧客本位の「未来の金融」という普遍的な価値観を否定するならば、時代も国民も必要としない「さよなら銀行」の道を歩むだけだ。

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森信親前金融庁長官の苦笑

未来の金融が真摯に向き合わなければいけないのは、「計測できない世界」だ。

ジョン・K・ガルブレイスが1977年に著書『不確実性の時代』で、不確実性という言葉を使い始めて、はや40年あまりが過ぎた。

未来のほとんどは予測などできず、不確実性に満ちている。テクノロジーの予想を超える急激な進化や人間の価値観が一変してしまう未来において、統計や確率、数理で論じられる領域など、僅かなものだ。行動と出会いと認識次第で、未来などいくらでも変わるからだ。

森金融庁は「企業の事業性や将来性を見極めて取引をする『事業性評価』」、「顧客との共通価値の創造」、「顧客本位のビジネスモデルの確立」といったこれまでの金融行政とはまったく異なる新たな改革を次々と金融業界にたたきつけてきた。

これらは、ある共通する森の信念から発せられていた。

テクノロジーの革新や人の価値観が大転換する「不確実性に満ちた未来」に対し、金融業界、金融行政は先手を打って備えなければならないという強烈な問題意識であった。

しかし、多くの銀行はそのメッセージをまともに受け止めず、「長官一代限りのイベント」と、高をくくって、目先の利益を追い、「変わらない」という選択をして、3年を過ごした。

ある時、森は筆者の取材に苦笑して漏らした。

「『来るべき日に備え、真に顧客に選ばれる銀行に変わらなければ大変なことになりますよ』と言ってあげているつもりなんだけど、なかなか当事者には分かってもらえない」

森の跡を継いだ遠藤俊英長官も同じ危機感を抱いているのではないだろうか。

森金融庁の改革を受け継ぎ、20年近く続いた金融検査マニュアルの廃止を迎える遠藤はどのような金融行政を目指そうとしているのか。