2019.02.02

さよなら「銀行」!? 2019年4月から金融機関に起こること

『捨てられる銀行』シリーズ著者が解説

「捨てられる銀行」の特徴

「捨てられる銀行」は、見えない未来に向き合わない。

人工知能(AI)やフィンテック(FinTech)は、もはや人の簡易な仕事の大部分を代替できるまでに進化を遂げようとしているし、10~20代の『Z世代』の価値観がまもなく世の中を席巻し、銀行の店舗、カウンター、人員の意味を根底から変えようとしていることを理解しようとしない。

一方で、人と人の「繋がり」や「共感」がかけがえのない事業価値となる時代の到来にも気づいていない。

志を持って入行したにもかかわらず、意味の分からない投信の回転売買や意味の分からないアパートローンをノルマとして押しつけられ、未来に希望を描けない若手職員の心の崩壊具合に気づいていない。

世界的に会計基準が「将来予測の反映」に向かおうとしているのに、将来キャッシュフローを見極める人間を一刻も早く育てなければならない事態に気づいていない。

「捨てられる銀行」は、過去続けてきた数値とノルマと地位と報酬による人間の管理、会計とコストだけで組織や人心までもコントロールできるという古代の信仰を捨てない。

いわば、目で見える「計測できる世界」しか見ようとしていない。

今、筆者はこう感じている。森は「見えていない問題にこそ備えよ」と伝えたかったのではないか、と。

銀行だけではない。会社組織に目を移しても異様な光景ばかりだ。日本を代表する数々の企業の相次ぐ品質データの改竄、不正会計問題。財務省の公文書書き換え問題。日大アメフト部の暴力プレー問題や各スポーツ団体のパワハラなど、こうした問題が後を絶たない。人間関係や組織の悲鳴が鳴り止まないのはなぜか。

人間の才能や優秀さ、目で見えるスペック(数値)ではなく、計測できない共感などの人間の関係性が崩壊し、悪がはびこっているのに、何の手立ても講じてこなかったためだ。

そう。会社組織の成否は、会計や従来のコスト計算では数値化できない「計測できない利益や損失」によって決定づけられていると言っても過言ではない。我々は、思わぬ内部告発で組織が脆くも瓦解するのをこれまで目の当たりにしてきたではないか。

「計測できない世界」とは何か

「計測できない世界」とは、包括的な概念だ。具体例を少し紹介しよう。

行動が変える未来、誰もが存在を信じて疑わない共感や疑心、予防や副作用の価値、形式の目的化、決して口に出さない見栄や保身が決定的に左右する経営、やりがいや生きがい、人と繋がり・人を巻き込むチカラ、大企業による中小企業の精神的奴隷支配、アクセルとブレーキを同時に踏むように無茶を求める組織上部の指令、管理しきれない規模への過信、押しとどめられない利己主義、人間がつくった数字がノルマとなって人間に襲いかかる悲劇、などである。

これらは数値化して計測できるだろうか。計測できないが事の重大性は分かっているはずなのに。

『捨てられる銀行3 未来の金融』では、「計測できる世界」の出来事や言葉に右往左往するのではなく、「計測できない世界」で何を意味し、何が起きているのかを洞察し、そして我々に何ができるのかを考える。

「見えないものは存在しない」「数値化できないものは考えるだけ無駄」――。

その過信、慢心こそが不確実性極まる時代を生きる上で、脅威なのだ。

「計測できる世界」の出来事や形式を信仰するだけでは、「計測できない世界」には到底迫れない。

すなわち不可解極まりない「人間」には迫れない。

目で見えない世界にどうしたら洞察を深めることができるのか。金融は無力なのか。これまでの常識を覆し、無理だと決めつけている社会課題すら解決する力を発揮できるのか。

会議をすると、したり顔で過去の成功事例や過去の確率を持ち出す者がいるが、それは未来に挑もうとしようとしているのではない。不確実な未来と不安な目の前の会議から逃れたいバイアスがそうさせているのだ。未来は過去の確率では決まらない。

「過去の確率」を信仰して行動を起こさない、あるいは別の可能性を信じて「行動を起こす」からこそ未来は変わる。つまり、「行動こそが未来を決める」のだ。

顧客の犠牲の上に成り立つ収益活動を「経営」と称してきた多くの銀行は、AIやフィンテックに代表されるテクノロジーの革新と、もはや銀行に足を運ぶ意味すら感じなくなった若い世代の価値観の台頭という未来に直面している。

「未来の金融」を選ぶのは、社内政治にうつつを抜かして企業官僚を気取る銀行員ではない。「計測できない世界」の価値を知るZ世代だ。

橋本 卓典 (はしもと たくのり)  1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。『捨てられる銀行』シリーズ(講談社現代新書)は累計23万部を突破。2月13日、その第3弾『捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』を上梓する。著書はほかに『金融排除』(幻冬舎新書)がある。