地域金融の未来を拓くのは、「面倒なお金」かもしれない
「共感」が古い金融の常識を変えていく地域金融の未来を拓く事業構想
2018年12月22日、平成最後の天皇誕生日を挟む三連休の初日。都内某所で地域金融機関の関係者80人程が集まる忘年会が開かれた。
地方銀行、信用金庫、信用組合、信用保証協会の関係者、中小企業診断士などの実務家などに加え、金融庁からは遠藤俊英長官ら幹部らも、私的な集いとして顔を出していた。
会の終盤、ミニ講演として資産運用会社「鎌倉投信」の創業メンバーの1人である新井和宏が登壇した。
目先の利益追求ではなく、持続可能な社会を目指す「いい会社」に投資し、堅実なリターンを出して注目を集めてきた鎌倉投信から独立した新井が代表を務める新会社「eumo(ユーモ)」の事業構想についてのスピーチだった。
新井の構想には、「地域金融の未来像」を模索する遠藤長官も強い関心を示した。決済、人工知能(AI)などのフィンテックが金融の未来を大きく変えようとしている今、地域社会から必要とされ、生き残るべき金融機関とは何か。その答えとなる可能性の一つを新井の構想に見いだしたからであった。
eumoは地域の課題解決などを通じた共感資本社会の実現を目指す事業会社だ。主な事業の柱は3つ。
①地域の課題解決に取り組む人材の供給
②共感資本社会に賛同する事業会社への投融資
③共感資本の経済圏をつくりだす電子ポイントによるプラットフォーム事業
詳しくは、2月13 日に上梓する筆者の最新刊『捨てられる銀行3 未来の金融』(講談社現代新書)を参照されたいが、ここでは③の電子ポイント事業について触れる。
「わざわざ」行く人にメリットを
eumoは電子ポイントの発行を通じて、「等価交換の円の経済圏」を「非等価交換の経済圏」に変革する構想を抱いている。その狙いは何か。かみ砕いて説明しよう。
例えば、地方のある工芸品の素晴らしさに感動し、共感に突き動かされて、わざわざ現地へ買いに行くとする。
しかし、もし手元に8000円しかなかったら1万円の民芸品を買うことはできない。サービスでも同じことだ。1万円の商品・サービスを利用するには1万円を払うしかない。
等価交換を前提とする円の経済圏は冷たい。「わざわざ」「共感」「ワクワク」による行動に1円の価値も認めないのだ。
しかし、これでは、人はますます「わざわざ」の行動を回避するようになる。非効率とされる地域の課題解決は見放され、格差や分断が深刻化し、行政サービスの節減でも追いつかない負担が税財政へとツケまわされる。
持続可能性が問われる日本社会において、地域の課題解決からの逃避は、会計年度をまたぐ因果応報の損失をもたらす。結局、誰も逃げられない。
「eumoは『わざわざ』に価値を認めて行動した人に『追い風』を吹かす共感通貨、いわば『面倒なお金』を目指します」
と、新井は新次元の経済圏構想を語る。
eumoが発行する電子ポイントは現地に行かなければ使用できず、半年で失効する「腐るお金」だ。ユニークなのはここからだ。
「行かない者」から回収されたポイントは「わざわざ」行動した者に再配布されるのだ。現地の民芸品店が値引きする必要はない。
eumoの共感資本の経済圏では「お金さえあれば何でもできる」というこれまでの力学は通用しない。課題解決のために「わざわざ」「共感」によって行動した者こそメリットを享受する。行かない者が多い程、「追い風」の風速は強まる。
結果、8000円しか持っていなくても1万円以上の商品やサービスを購入できる。