2019.02.09
# 恐竜

海の古生物の代表選手が「怪しい化石の代名詞」に転落した哀しい話

恐竜大陸をゆく ケイチョウサウルス編
安田 峰俊 プロフィール

貴州省の各地からは、偽竜類のシンギサウルス・アネクスペクタス(意外興義龍:Shingyisaurus unexpectus)、タラットサウルス類のアンシュンサウルス・フアングオシュエンシス(黄果樹树安順龍:Anshunsaurus huangguoshuensis)などの化石が報告されている。

また、魚竜のキャニチュシヨサウルス・ジョウイ(周氏黔魚龍:Qianichthyosaurus zhoui、なお日本語カタカナ表記は筆者が便宜上付けたもの)や魚竜のミクソサウルス・マオタイエンシス(茅台混魚竜:Mixosaurus maotaiensis)、首長竜(鰭竜類)のチンチェニア・スンギ(宋氏清鎮龍:Chinchenia sungi)やサンチャオサウルス・ダンギ(鄧氏三橋龍:Sanchiaosaurus dengi)など、他にもさまざまな三畳紀の海棲爬虫類たちが見つかっている(王[2000])。

他方、ケイチョウサウルスは出土数が多いことで知られ、貴州省のみならず湖北省でも仲間のケイチョウサウルス・ユアナネンシス(Keichousaurus yuananensis:遠安貴州龍)の発見例がある。また、体長が小さいことから全身が岩盤に封入された形で見つかることも多々あった。

ケイチョウサウルスの化石標本楊鍾健の論文中で紹介されているケイチョウサウルスの化石標本。手足の5本の指がはっきりと確認できる(楊〔1958〕より)

生前のケイチョウサウルスは、当時としてはそれだけ数の多い、ありふれた生物だったようだ──。

より正確に言えば、死後すぐに遺体が泥土や砂に埋もれるなどしやすい、化石化の良好な条件が揃った海岸部に、たまたま多く分布していた生物だったようである。

だが、それゆえにケイチョウサウルスには不名誉なニュースもつきまとっている。すなわち、大量の盗掘被害やニセ化石の横行だ。

ケイチョウサウルス「本物」とされるケイチョウサウルスの化石 Photo by iStock

出土した山に村人が殺到

1990年には、黔西南プイ族ミャオ族自治州の頂效镇緑蔭村の青年が住宅の屋根用に使う岩盤を山で採掘していた際、たまたま十数カケラ以上のケイチョウサウルスの化石を掘り当てたところ、地元農民の年収の倍以上の大金である1400元で売れてしまった(なお、貴州省は全国でも貧困省に相当し、1990年の省内農民の平均年収は629元だった)。

この噂を聞きつけた地元の村人たちはゴールドラッシュさながらに山に殺到して盗掘をおこない、結果的に「1000点余りの」化石が流失する。

その後に黔西南州文化局が村人らに道理を説いて577点の化石を提出させたそうだが、それでも大量の化石が失われてしまった。

また1994年末にも、ケイチョウサウルスの発見地周辺の6ヵ村の村人たち数百世帯が盗掘ラッシュを起こした。現地当局は山で取り締まりをおこなって13人を逮捕、123点の化石を奪還したが、あまりの盗掘者の多さに人手が足らず、やはり相当数のケイチョウサウルスを含んだ化石群が失われてしまった(上記の話はいずれも『貴州都市報』2005年7月11日報道)。

ニセ化石「加工工場」まで…

『貴州都市報』は、2005年当時の現地では盗掘がすっかり産業化して密売ルートが整備されていたことも伝え、「地元でカネがある家はケイチョウサウルスを掘り当てた家だ」などといった現地住民の証言も報じている。

さらに、現地ではケイチョウサウルスのニセ化石を彫刻して作成する「加工工場」が、地元産業として成立してしまっていたという。

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