早川書房の銀背と呼ばれたSFシリーズを初めて手にしたのもそこだったし、当時は唯一の科学書シリーズだったブルーバックスも数多く揃えてあって重宝した。
そこで買ったかどうかは定かでないが、石原藤夫氏の『SF相対論入門』や都筑卓司氏の数々の相対論本などを読んで、相対論の〝不思議な〟世界に魅せられたものである。
時が経ち、相対論を学び、相対論を使った研究をするようになると、相対論の世界というのは、別に不思議でも何でもないことがわかってきた。たしかに日常の常識とはかけ離れた世界ではあるが、あくまでも日常と地続きで、ただ、そのはるかな延長上にある世界なのだ。
不思議な世界も、それはそれで楽しいし面白くはあるが、でも、不思議なことが理解できれば、なお興味が深まり嬉しいものである。
相対論の世界も、きちんと説明すれば、定性的な本質は多くの人に理解できるものだと思う。実際、特殊相対論の初歩に限れば、偏微分もテンソルも不要でルートを知っていれば計算できるので、中学生でも数式を使った定量的なレベルまで理解できるだろう。
まだまだ増える相対論の「宿題」
そして一つの謎が解明され不思議が理解できたとしても、かならず、より多くの謎と不思議が生まれるのは、科学の常である。ありがたいことに〝不思議〟がなくなることはない。
相対論の場合も、アインシュタインの最後の宿題と言われた重力波が100年後に直接検出されたから、ではこれで宿題は全部終わったのか、というと、とんでもない。どうして合体したブラックホールはそんなに重かったのか、をはじめとして、ブラックホール天文学のコミュニティは大騒ぎである。
さらに、ダークマターやダークエネルギー、量子重力、高次元時空、マルチヴァース(多宇宙)などなど、21世紀に入ってからも、相対論が関係する謎と神秘に満ちた宿題は、どんどん増えているのだ。
ぼく自身、高校時代にブルーバックスを多読して相対論や科学の面白さに心を躍らせた口だが、いつの間にか、書く側になってしまった。いまではブルーバックス以外にも多くの科学系新書があって羨ましいところもある。
そんな多くの本の中で、たまたま、『「超」入門 相対性理論 アインシュタインは何を考えたのか』(講談社ブルーバックス)を読んで、相対論の〝不思議〟に魅せられ、さらには、何だ、実はそれほど難しい話じゃないじゃないかと思い、そしていつかは、新たな宿題へ挑んでくれる若い読者が現れれば、これは著者冥利に尽きるというものだろう。