2019.02.19

「違法ダウンロードの範囲拡大」に潜む、重大な問題点

世界的に見ても異例な広範囲
藤本由香里 プロフィール

「常習的」と「日常的」の違いは?

しかし、こうした議論に意味がなかったわけではない。

院内集会の直前の2月5日に出された「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会報告書」では、それまでの「報告書(案)」とは違って、刑事罰の範囲には制限を設けるという方針が示されている。

2月13日の朝日新聞の報道によると、同日、文化庁から自民党文部科学部会に示された素案では、ダウンロード違法化の対象から二次創作が外され、刑事罰の対象範囲は常習的に行った場合に限る、とされた。また、ダウンロードした著作物が著作権を侵害していることを「知らなかった」場合もはっきりと免責されている

〔PHOTO〕iStock

だが、まだ問題が解決されたわけではない。

「常習的」という要件は入ったものの、ダウンロード違法化の範囲は「すべての著作物」に拡大されたままである。2月16日のラジオ番組「荻上チキSession-22」で福井健策弁護士も指摘していたが、「日常的にウェブクリッピングを行っている」ということも「常習的」とみなされる可能性がある。つまり誰でも犯罪者になりうるということだ。

とはいえ、まったく安全装置がないわけではない。最大の安全装置は、著作権侵害が親告罪だということだ。昨年暮れ、TPP関連法案の成立で、一部の著作権侵害(有償著作物のデッドコピー)は非親告罪化されたが、今回のダウンロード違法化は、すべて親告罪のままとされている。

懸念される嫌がらせや公権力の濫用

しかし、だとするならば、いったいどうやって著作権者が、ユーザーが違法ダウンロードを行っていることを知って訴える、ということが起こるのだろうか。

一つには、海賊版サイトが摘発され、そのログからたどって常習的なユーザーが特定される場合。あるいは別件で逮捕されて判明する場合。あるいはブログやツイートから判明する場合。あるいは密告。

先に違法化された音楽や動画でまだ逮捕者が出ていない状況を考えると、そういうことは起こりにくいように思えるが、日常的にネットを使っている人なら実感しているように、ネット上では著作権侵害には敏感である。ダウンロード違法化の範囲がネット上の全著作物に拡大されたら、嫌がらせで密告されるのではないか、それで萎縮が起こるのではないか、という懸念もささやかれている。

そしてまた、考えたくはないが、たとえ起訴は著作権者の同意がないとできないとしても、捜査は警察が自発的に行い、著作権者に連絡して起訴の同意を求める、という可能性は否定できない。「捜査されてパソコンを押収される」――たとえ無罪でも、たとえ起訴されなかったとしても、どれほどのダメージであるかは言うまでもないだろう。

 

ここで問題となるのが、「著作権侵害だと知らなければ免責される」ということだ。文化庁はこの部分を強調して安心しろというのだが、これは翻せば、「著作権について知っている人ほど有罪の可能性が高まる」ということでもある。有識者、創作者、ジャーナリスト……つまりは「言論」に関わる人々ほど危ない。出版界は海賊版対策だけに目がいっているようで、こうしたことを問題視していないが、これが言論統制を目的とした違法範囲拡大でないことを祈るばかりだ。

本来の目的が海賊版対策であるならば、著作権についての啓蒙を行うべきなのに、著作権への理解を深めれば深めるほど有罪の可能性が高まる。これでは「国民は著作権に無知であれ」と言っているのに等しく、少なくとも立法の趣旨に反するのではないか。

改正案の具体的な条文が出てくるのはこれからだが、以上の懸念を踏まえて適切な改正案にするためには、

著作権者の利益を不当に害することとなる場合に限る
典型的な海賊版に限る

という縛りが絶対に必要だろう。

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