2019.02.19

「違法ダウンロードの範囲拡大」に潜む、重大な問題点

世界的に見ても異例な広範囲
藤本由香里 プロフィール

世界的にも異例な広範囲

事実、諸外国でも、これほど広範にグレーの部分まで含めてダウンロードを積極的に違法化した例はない

文化庁は「ドイツ,フランスをはじめ多くの国が,違法にアップロードされた著作物(その種類は問わない。)を複製する行為を、例外規定の適用対象から除外している」としており、諸外国もジャンルを限定していないから、違法の対象を「全著作物」に拡大するのが適当であるとする。

しかし諸外国では、著作物のジャンルにこそ制限を設けていないかもしれないが、たとえば文化庁が「中間まとめ」で紹介している例を見ても、そもそも特別な規定がなかったり、規制がある国でも、違法化の対象は基本的には「明確な海賊版サイトからのダウンロード」に限定される傾向にあると思われる。「引用の要件を満たさない、著作物のごく一部の転載」など軽微な著作権侵害にまで意図的に広く違法化の網をかけるようなことはしていないようだ。

 

たとえばアメリカは、ダウンロード違法化に関する特別な規定を持たず、フェアユースの基準に照らして個別の事例を判断するとしている。「中間まとめ」で紹介されている有罪とされた判例は、「作品の完全な市場代替物」であることが理由である。
なによりアメリカでは、私的ダウンロードに関して刑事罰の対象となるのは、著作権者に1000ドル以上の被害額を与えた場合とされており、そもそも軽微な私的使用が刑事罰の対象となることはないといえる。

また、文化庁が「刑事罰を設けている」として前面に打ち出すドイツとフランスだが、まずドイツは、「明らかに違法に制作され、公衆送信された」ものをダウンロードすることを違法としており、フランスは逆に、「適法な出所からのダウンロードはとがめられない」としている。この「適法な出所」というのがどの範囲を指すのかは正確には不明だが、この規定でさえ「広すぎる」として議論の的になっている。

また、各国とも違法化の要件は基本的には客観的な事実においており、「著作権侵害を知っていたかどうか」という「主観要件」を条件に入れている国は、私の知る限りない。この主観要件は現行の音楽や映像のダウンロード違法化の条文にも含まれており、刑法が専門の立教大教授・深町晋也委員がそれについて「『事実を知りながら』の解釈について裁判所の判例はなく、(立案者がどう解釈しても)裁判所がどう解釈するかは不透明」と指摘した報道もある(1月23日付、読売新聞オンラインの記事より)。

以上のことを鑑みるに、今回の改正の方向は、他国に例のない、異例の広範囲に及ぶ違法化を意図的に行うものと見ることができる。

どうか「改善」を

〔PHOTO〕iStock

ここで最初の指摘に戻る。

「なぜ文化庁は、海賊版対策の範囲を大きく逸脱して、グレーな著作物のダウンロードまで違法化しようとするのか?」

「なぜそれほど強引に、十分な審議もせずに、委員から強い疑義が出ても切り捨て、成立を急ぐのか?」

まず考えられるのは、「言論統制の道具として使うつもりだから」という理由である。もちろんそう考えたくはない。しかし、それを疑いたくなるような要素はある。よしんば成立させる側にはそんなつもりはなくとも、法律は、法律の中にきちんとした歯止めがなくては、後世、どんな利用のされ方をされるかわからない。

数多の危惧、懸念を払拭するためにも、刑事民事を問わず違法となるのは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合に限る」という縛りは最低限必要である。

今のままではそれこそ、政治家のブログに貼られた、その人の活動を紹介する新聞記事(引用の要件を満たさず、著作権処理をしていない)をダウンロードして保存した支援者だって有罪になりかねないのだ。

著作権法の目的である「文化の発展」のためには、今すでにある著作物の権利を守るだけでなく、新しく生まれる著作物の発展を促すような、少なくともコンテンツ産業の発展を阻害しない方向での著作権法の整備が必要不可欠である。

2月13日に開催された文化審議会著作権分科会の親委員会で、「情報収集と表現行為が混乱しているようですが」と確認した司会者の道垣内分科会長に対し、永江朗委員が「その2つを分ける意味はない。情報収集なくして表現はない」と言い切った*1ことを肝に銘じてもらいたい。まさに「情報収集なくして表現はない」のである。

これから具体的な法案を審議する自民党文部科学部会には、ぜひ適切な構成要件を備えた法案を期待したいものである。

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