視覚障害を理由に「指導能力がない」
では元々「他に適任者がいる」という理由で、山口さんが授業から外されたのかと言えば、そうではなかった。最初に動きがあったのは14年1月。

当時、幼児教育学科に在籍していた事務担当の派遣職員が、山口さんの業務の補助をしていた。以前よりも病気が進行していた山口さんは、派遣職員が自ら「手伝えることはありませんか」と声をかけてくれたことから、書類のレイアウトの調整や、印刷物や手書き文書の読み上げなど、視覚障害のためにできない作業の補助をお願いしたという。
にもかかわらず大学は、派遣職員の契約が14年2月に満期を迎えることを理由に、山口さんに「今年度で辞めたらどうですか」と言ってきたという。次に着任する職員には、視覚障害をカバーするための補助作業はさせられないからと、山口さんに退職勧奨した、というのだ。
この時は山口さんが自費で補佐員を雇うことで、退職を回避した。補佐員は週に2、3日、1日5時間ほど出勤し、研究室での補助や、授業での出欠の確認などを手伝っていた。
ところが16年1月、大学が今度は「山口さんには指導能力が欠如している」と言い始め、教職をやめるよう迫ってきた。山口さんによると、その理由は次の2点だったという。
ひとつは、山口さんがゼミで教えていたある学生が、同じゼミの学生と仲が悪くなり、ゼミが楽しくないと他の教員に伝えたことを、大学が山口さんへのクレームとして大きく扱ったこと。もうひとつは、山口さんの授業中に抜け出している学生がいるが、山口さんが視覚障害のために注意できない、というものだった。
山口さんは16年2月、代理人弁護士を通じて、話し合いで解決するよう求めた。しかし大学の態度は頑なで、さらにいくつもの理由をつけてきた。視覚障害のために授業中にスマホをいじっている学生を注意できない、無断で教室を退去する学生を注意できない、など。
大学は特に、授業中にカップラーメンを教室で食べていた学生がいたにもかかわらず、山口さんの視力が弱いために気づかず、注意できなかったことを大きな問題にした。しかし、それなりの分別があるはずの短大の学生による問題行動を、目が見えなくて気づかず注意できないのが悪いと、全て山口さんに責任を押し付けるのはいかがなものだろうか。
山口さんはこれまで20年近くにわたって授業を担当してきた。講師から准教授にもなった。それなのに大学は、視覚障害があるために学生の問題行動を注意できないから指導能力がないと突然言い始めたのだ。
本来は、視覚障害がある山口さんの補佐は、大学が合理的配慮によって考えるべきことだ。しかし大学は、配慮はせず、教員から外してしまった、ということだ。