2019.02.28
# インフレ # 世界経済

ベネズエラを事実上のデフォルトに追い込んだ「ポピュリズム」の恐怖

日本はそこから何を学ぶ?
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

一方、物不足は原油価格下落以前から始まっていた。チャベス政権が食料や日用品の価格統制を始めたためだ。これも元々は貧困層の救済策であったはずというところが悲しいのだが、結果としては採算割れの事業を強いられた業者が次々に製造や販売から撤退し、食料や商品が商品棚から消えてしまったのだ。

さらに原油価格が急落してからは、政府がデフォルトを防ぐことを優先して民間セクターの輸入を大幅に制限したため、生活必需品不足が一段と深刻化した。

トイレットペーパーや石鹸を買うのに何週間もあちこちの店を探し回って何時間も行列をするのは日常のこと。学校に行くためのバス便や子供に飲ませるミルクや病院での薬やあらゆる備品も不足している。

最近のインフレには賃上げが追いつかず、食料や最低限の生活物資を購入するのも困難になっている。今年1月から最低賃金は月に1万8000ボリバルと以前の3倍に引き上げられたが、一般の人が利用する非公式為替レートでは7ドルにもならない。一方、玉ねぎ1キロの値段は4000ボリバル、洗剤は5000ボリバルはする。

カラカス市の六千人以上を対象にした大学機関の調査では、市民の平均体重が2016年は7キロ、2017年には11キロ減少したという。国連食糧農業機関は、人口の12%に相当する370万人が栄養失調だと発表した。外貨収入や海外に脱出する術のない貧困層を中心に、国民の負担は極めて大きい。

 

ハイパーインフレで株を買う「絶望」

ベネズエラ中央銀行のデータでは、外貨準備高は2011年に300億ドルあったのが2019年の1月現在は80億ドル程度しかない。前政権は国民にタダ同然のガソリンを大盤振る舞いしたが、現政権も財政拡大路線を踏襲しており、原油価格が回復しても財政収支の均衡は難しい。

そこにトランプ政権による制裁が加わった。PDVSAは米国に子会社(CITGO)を持っている。ボストンの野球チーム「レッドソックス」のホームグラウンド、フェンウェイパーク近くの看板がよくテレビ中継に映るので有名だが、トランプ政権は1月28日、CITGOの資産凍結に乗り出したのだ。

これで更に年間110億ドルの輸出収入が減る見込みだ。

すでにベネズエラは、事実上デフォルトしている。PDVSAはCITGOを除き、債務の利払いを2017年から停止しているからだ。主要格付け機関も、ベネズエラ国債やPDVSA債権をすでにデフォルトとして扱っている。

さて、経済破綻のベネズエラにも株式市場がある。この状況下で株の取引が続いていること自体が驚きだが、現金が紙くずになる前になんとか資産防衛をしたいと考える個人や事業主が絶望の中で投資をしているのだ。

カラカス証券取引所指数は昨年、現地通貨ベースで12万7000%という驚異的なリターンを叩き出した。もちろん議会発表の100万%というインフレ率が正しければ、実質資産価値は大きく目減りしたことになる。ドル建てでは94%下落して、世界の株式市場の中で最悪の成績となった。

マイルドなインフレでは現金や債券より株を保有した方が資産防衛になるが、ハイパーインフレでは役に立たないことは、過去の歴史でも明らかだ。

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世界的にポピュリズムの潮流が目立つ時代となった。日本で大衆扇動型のポピュリズムがそれほど広がっていないのは、社会にまだコミュニティーとしての一体感が存在しているためかもしれない。高い賃金を得ていなくても仕事に誇りを持って働いている人が日本では多いと思う。

しかし、日本でも格差は拡大しつつある。それを放置すれば、社会に対して疎外感や怒りを感じる人が破壊型のポピュリズムに走るリスクは常にある。そうなる前に歪んだマネーの動きを是正することはできないものだろうか。

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