利用者は1億人
それなのに喉元過ぎれば……なのか、今度はP2Pという金融サービスに人々が群がった。クリックひとつでできてしまうP2Pは気軽な財テク手段、一説によれば利用者は1億人にものぼるというが、このP2Pが近年、中国で大問題になっている。
いい加減なリスク管理で償還不能に陥るどころか、違法に集めた資金を横領し、債務不履行に陥った個人には情け容赦ない取り立てを行う――利用者の多くが「騙された!」と怒りの声を上げ、中央政府に直訴する事態にまで発展しているのだ。

中央政府もP2Pが制御不能になることを恐れ、2017年末、金融当局はP2Pのリスク改善のための通知を発表。2018年春から夏にかけて中国では “粛清の嵐”がP2P業界に吹き荒れた。
国家インターネット安全技術専門委員会が発表した報告によれば、2018年6月末までに中国のP2Pプラットフォームは2835社になったという。同年上半期は36社の新規参入があった一方で、721社が消えた。721社のうち、ホームページが閉鎖されている企業は511社、コンテンツ更新がない企業が85社、経営者が失踪した企業は67社にのぼった。
消えたP2Pのプラットフォームといえば中宝投資有限公司がある。創業者(37歳)は、20%の高配当を謳い、1586人から10億元を超える資金を違法に集めて自分の口座に入れ、過去の債務を消した残りの9800万元を自身の不動産や高級車、宝飾品などの購入に充てたという。
そもそもP2Pは、情報提供と仲介サービスが主要業務とされ、民間から直接に資金を集めることはできない。にもかかわらず、違法に集めた資金を横領し使い込み、投資者への償還ができなくなる事例が多発していた。P2Pの運営は参入ハードルが低く、金融やITの知識が乏しい素人でも起業できてしまうため、以前から経営の脆弱性が指摘されていた。
こうした詐欺まがいのP2Pに、昨夏、上海市や杭州市で一斉に警察の手入れが行われた。前出の鄭さんはこの波に巻き込まれ、一瞬のうちに100万元を失った。
全財産をつぎこむ
P2Pがハイリスクハイリターンであることは今さら言うまでもない。それを承知で金持ちも庶民も農民も老人もこれに群がった。血が騒ぐとはこのことなのだろう。
資金の「貸し手」に多いパターンは、最初は小額から初めて、儲けが出ると全財産をつぎ込むケースだ。年金生活者の男性も、元金の3万元が3カ月で3万1000元に増えたのに気をよくし、10年かけて貯めた虎の子の10万元をP2Pに投じた。増やした資金で入れ歯を治したいと思っていたが、経営者の逮捕とともにアプリが閉鎖されてしまった。
また、あるシングルマザーは子どもの将来の教育費になればと、最後には400万元近い夫の遺産をP2Pにつぎ込んだ。だが、その後ほどなくしてこのP2Pに当局の捜査が入ったことを知らされる。
こうした事例から見て取れるのは、“飽くなき金銭欲”を上回る将来や生活への強い不安だ。子どもをいい学校に通わせるためには、いい学校の通学圏にある住宅の購入から始めなければならないし、いい先生に目をかけてもらうためには、いい贈り物をしなければならない。いい医療サービスを選択するにも、安心して老後の生活を送るにも、どうしたってお金がいる。